最近では「発達障害」という言葉を耳にする機会が増えてきました。子ども時代に診断されるケースが多い一方で、大人になってから初めて自分が発達障害であると知る人も少なくありません。こうした「大人の発達障害」では、特性自体は比較的軽度である場合もありますが、発見の遅れやこれまでの生育歴によって、特有の苦しさや生きづらさ(しんどさ)を抱えることになります。
本記事では大人の発達障害の特徴と、特にしんどさとして現れやすい5つの課題について詳しく解説します。
発達障害とは、生まれつきの脳の特性によって得意なことと苦手なことの差が大きく現れる障害です。主に「注意欠如・多動症(ADHD)」や「自閉スペクトラム症(ASD)」が代表的であり、生活や対人関係に様々な影響を及ぼします。発達障害のある人はしばしば長期間の不適応やストレスを経験しやすく、それが原因となってうつ病や不安障害などの二次障害を併発することも少なくありません。
ADHDは不注意・多動・衝動性が特徴の障害です。忘れ物が多い、物事を順序立てて進めるのが苦手、衝動的に発言や行動をしてしまうといった特性が目立ちます。
ASDは対人関係の困難や強いこだわりが特徴です。空気を読むことが苦手だったり、特定の興味に強く没頭したりします。時には場の雰囲気にそぐわない発言をしてしまうこともあります。

発達障害の多くは幼少期に診断されることが多いですが、中には子ども時代に大きなトラブルが表面化せず、大人になってから社会生活の中で困難に直面し、初めて診断されるケースもあります。職場での対人トラブル、仕事のミスの多発、うつ病や適応障害の繰り返しなどが受診のきっかけとなることが多いです。インターネットなどで情報を収集する中で、自ら発達障害を疑い受診に至る人も増えています。
大人の発達障害では、以下のような治療・支援が行われます。
ADHD治療薬や、併発するうつ病や不安障害などの治療薬が処方されることがあります。
特性を理解し、それに合った対処法や生活スキルを少しずつ身に付けていきます。
障害者手帳、就労移行支援、福祉サービスなど、社会資源を適切に活用することで生活の安定を図ります。
大人の発達障害は、診断の遅れに伴って様々なしんどさを抱えやすくなります。ここからは特に代表的な5つのしんどさについて詳しく説明します。
大人の発達障害の診断時には、既にうつ病や不安障害といった二次障害を併発しているケースが非常に多く見られます。発達障害の特性そのものよりも、長年積み重なってきたストレスや不適応の蓄積が二次障害を引き起こしやすくします。
例えば、不注意によるミスの繰り返しや対人関係の失敗が続くと自己評価が下がり、うつ病を発症することがあります。あるいは、職場や学校で無理に周囲に合わせようと過剰に適応し続けた結果、心身が限界に達し、適応障害やパニック障害を引き起こす場合もあります。また、衝動性が強い人では怒りのコントロールが難しく、突発的な衝動行為に発展するリスクもあります。
発達障害のある人は子どもの頃から失敗や否定的な経験を重ねることが多く、自己肯定感が低下しやすい傾向にあります。周囲から「どうしてこんな簡単なことができないの?」と責められたり、自分でも「また失敗してしまった」と自責感を抱いたりする経験が積み重なるのです。
更に大人になるまで気付かれずにきた場合、自分の特性を知らずに無理に周囲に合わせようと努力し続ける「過剰適応」をしていることも多くあります。その結果内心では常に不安や緊張を抱え、自分の本来の姿に自信を持てなくなってしまいます。
対策としては、小さな成功体験を積み重ねることが大切です。
失敗の記憶は消すことはできませんが、新しい成功体験を重ねていくことで過去の記憶に少しずつ上書きすることが可能です。いきなり大きな挑戦を目指すのではなく、自分に合った無理のない課題を選び、成功を積み重ねていくことが自己肯定感の回復に繋がります。
子ども時代に診断された場合は、療育という形で早期に支援を受けることができます。療育では特性に合わせたスキルや対処法を練習しながら身に付け、二次障害の予防にも繋がります。しかし大人になってから診断を受けた場合は、こうした療育を受ける機会がないまま成長してきています。
そのため、自分の特性を客観的に理解したり具体的な対処法を体系的に学んだりする機会が少なく、試行錯誤を自力で積み重ねる必要があります。
対策としては、自己理解を深めることが重要です。
自分に向き合い自分の特性を整理しながら、1つ1つ必要なスキルを身に付けていくことが求められます。近年は大人向けの発達障害支援のプログラムやピアサポートも増えており、必要に応じて活用することが有効です。

大人になってから障害を知ると、強い心理的ショックや葛藤を抱えることがあります。中でも「自分は普通だと思って頑張ってきたのに、実は障害があったのか」という衝撃や、「これまでの失敗は障害のせいだったのか」と後悔や怒りが湧くこともあります。
更に「発達障害は治らない障害」「薬だけで完全に治るわけではない」という現実を突き付けられることで、将来に対する不安が強まることもあります。場合によっては、これまでの人生経験が否定されたように感じ、アイデンティティの揺らぎが生じる人もいます。
対策としては、「今できることに集中する姿勢」を持つことが大切です。
障害を知ったからこそ、これから自分の特性に合った環境や生活スタイルを模索し、より良い方法を探していくことができます。過去を否定せず、むしろ今の理解を土台にして、未来の生きやすさを築いていく姿勢が重要になります。
社会全体では発達障害への理解は徐々に進んでいますが、それでも偏見は依然として根強く残っています。「能力や意欲の問題だ」「甘えだ」という誤解を持つ人もいますし、「発達障害を言い訳にしている」と批判されることもあります。
更に実際に発達障害のある人と関わる中で、嫌な経験をした人が偏見を強めてしまうケースもあります。例えば、ASDの人の強いこだわりに振り回された経験、ADHDの人に衝動的に怒られたり失礼なことを言われたりした経験などから、発達障害全体に悪印象を抱いてしまう人もいます。
対策としては、「自分軸をしっかり持つこと」と「日々の行動で信頼を積み重ねること」が大切です。
どうしても偏見が強い人は一定数存在するため、必要に応じて距離を取ることも現実的な対応になります。一方で周囲の人たちに対しては、丁寧なコミュニケーションや配慮を積み重ねることで、少しずつ信頼関係を築いていくことが可能です。
大人の発達障害は特性自体は軽めであることも多いですが、発見の遅れから「二次障害」「自己肯定感の低下」「療育機会の不足」「受容の葛藤」「偏見や悪印象」という5つのしんどさを抱えやすい現実があります。しかし診断によって自分の特性を知ることは、今後の生き方を考え直す大きなチャンスにもなります。大切なのは過去を悔やみ続けるのではなく、「今できること」を少しずつでも積み重ね、より良い自分らしい人生を築いていくことです。誰もが自分に合ったやり方で、少しずつ前に進むことができます。