近年、心療内科や精神科の現場では「発達障害」に関する相談が増加しています。これは、生まれつき脳の働きに特徴がある状態であり、日常生活や対人関係において困難を抱えやすい特性を指します。発達障害には明確な治療法や“特効薬”が存在せず、生涯にわたってその特性と付き合っていく必要があります。そのため、周囲の理解が得られにくい中で、本人が抱える「しんどさ」は非常に多面的で深いものとなりがちです。
今回は、代表的な発達障害であるADHD(注意欠陥多動性障害)およびASD(自閉スペクトラム症)を中心に、発達障害のある方が感じやすい「5つのしんどさ」について丁寧に解説していきます。

発達障害とは、生まれつきの脳の発達の偏りによって、生活や人間関係において「得意・不得意の差」が非常に大きく現れる特性を指します。代表的なものとして、以下の2つが挙げられます。
発達障害自体は病気ではなく「脳の特性」ですが、社会生活の中でこの特性により過度なストレスを受けると、うつ病や不安障害などの「二次障害」を引き起こすことも少なくありません。

発達障害に対する治療は、特性を「治す」というよりも、「どう付き合っていくか」に焦点が当てられます。主な支援方法は以下の通りです。
治療の基本的な考え方は、「特性は残る」という前提のもと、改善や適応を目指すものであり、無理に周囲に「同じように合わせる」ことを求めるものではありません。

1. 周囲と合わせにくい
発達障害のある方は、生まれ持った特性によって「自然に振る舞う」と周囲とズレが生じやすいという課題を抱えています。たとえばADHDでは、思ったことをすぐ口にしてしまったり、衝動的に行動して周囲を困惑させてしまったりすることがあります。ASDでは、相手の気持ちを読み取ることが難しく、共感や配慮がうまく伝わらない場合があります。
合わせなければトラブルが生じやすくなる一方で、無理に合わせすぎると「過剰適応」となり、自分の本心や感情を押し殺して生活することになってしまいます。これが積み重なると、強いストレスとなり、最終的には心身の不調(二次障害)につながることもあるのです。
2. 組織に馴染みにくい
社会や職場といった集団では、一定のルールや秩序、協調性が求められます。しかし発達障害のある方は、その“当たり前”が理解しづらかったり、従うことが難しかったりします。
ADHDの方では、遅刻や忘れ物、ミスが多く、注意される場面が繰り返されがちです。衝動的な言動により人間関係が悪化することもあります。一方、ASDの方では、こだわりからルールに適応できず、マルチタスクや臨機応変な対応が求められる場面でパニックに陥ることもあります。
このような「組織とのミスマッチ」が続くと、評価が下がったり職場で孤立したりする原因にもなりかねません。
3. 非常に疲れやすい
発達障害のある方は、日常生活そのものが非常に疲れやすい傾向にあります。これは感覚過敏、注意の過集中、不安、努力の積み重ねなど、さまざまな要因が絡んでいます。
ADHDでは、集中しすぎる(過集中)ことで疲れ切ってしまう、怒りを抑えるためにエネルギーを消耗する、不注意のために休養そのものが苦手、といった特徴があります。
ASDでは、社会適応のために「理詰めで空気を読もう」と努力することや、感覚過敏によって情報を強く受け取りすぎること、こだわりゆえに注意の切り替えが困難なことなどが、疲れを蓄積させます。
疲労が慢性化し、休息がうまく取れないと、心身にさらなる影響を及ぼす恐れが高まります。
4. 周囲からの偏見・誤解
発達障害のある方が抱えるしんどさの一つに、「周囲からの偏見や誤解」があります。
ADHDに対しては「ただの怠け者」「自制心がない」といった誤解が多く見られます。また、「ADHDを免罪符にしている」といった心ない指摘を受けることもあります。
ASDでは、特有の表情や動きが「奇妙」と捉えられたり、対人交流の苦手さから「陰気」などと揶揄されたりすることがあります。最近では、ASDの人が「カサンドラ症候群の加害者になる」といった偏った報道や表現が、さらなる誤解を生む要因になっています。
こうした偏見は、当事者の自己肯定感を著しく損ない、孤立や二次障害の引き金となることが少なくありません。
5. 自己否定と二次障害
発達障害のある方は、周囲とのズレやトラブルを繰り返す中で、強い自己否定に陥りやすい傾向があります。どれだけ頑張っても報われない、理解されない、という経験が蓄積されると、「どうせ自分はダメなんだ」といった無力感が身についてしまいます。
これが持続すると、うつ病や不安障害といった二次障害を引き起こすリスクが一気に高まります。しかも、うつや不安が悪化すればさらに社会生活が困難になり、挫折体験が重なって、さらに自己否定が強まるという“悪循環”が生じてしまうのです。

発達障害は、ADHDやASDといった形で現れる生まれ持った脳の特性であり、努力不足や甘えとはまったく異なるものです。しかし、その特性が目に見えにくいがゆえに、本人も周囲も「なぜうまくいかないのか」に気づけず、苦しみが深まってしまうことがあります。
今回ご紹介した「5つのしんどさ(周囲と合わせにくい/組織に馴染みにくい/疲れやすい/偏見/自己否定と二次障害)」は、その代表的な例です。
もし「子どもの頃から頑張ってもなぜかうまくいかない」「人と同じようにやっているつもりなのに疲れ切ってしまう」といった感覚が続いている場合、発達障害の可能性を一度検討してみることも大切です。必要であれば専門の医療機関や支援機関に相談し、自分らしく生きるための一歩を踏み出していただけたらと思います。