近年、精神疾患に対する社会的関心が高まる中で、「精神疾患とは心の病気なのか?それとも脳の病気なのか?」という問いがしばしば話題になります。このテーマは専門家の間でも意見が分かれるところですが、結論としては、「精神疾患は心の病気でもあり、脳の病気でもある」と言えるでしょう。
この記事では、精神疾患の基礎的な理解から、「心」と「脳」という2つの視点に基づいた解釈、さらに各疾患ごとの特徴を踏まえて、精神疾患とは何かをわかりやすく解説していきます。
精神疾患とは、精神状態、つまり考え方や気分、行動の面において不調や異常をきたす疾患の総称です。これには、うつ病やパニック障害、統合失調症、双極性障害、発達障害、パーソナリティ障害など、非常に幅広い疾患が含まれます。診断や治療は、主に心療内科や精神科で行われます。
こうした多様な精神疾患について、その原因や本質を「心の問題」と捉えるのか、「脳の異常」と考えるのか、立場によってアプローチが異なってくるのです。

精神疾患を「心の病気」と捉える立場では、主に心理的な要因が病の原因や経過に影響すると考えます。心理学や精神分析など、心の働きに注目した理論や治療法に基づいています。
この立場には、以下のような根拠があります。
1. ストレスによる発症・悪化
多くの精神疾患は、過度なストレスによって発症したり、症状が悪化したりすることが知られています。仕事や人間関係、生活環境などの心理社会的なストレスが大きな引き金となる場合が多いです。
2. 心理的なあり方が症状に影響する
その人の考え方や性格傾向、自己評価などの心理的な側面が、症状の出方や長引き方に大きく関与することがあります。
3. 心理的な働きかけによって改善が見られる
カウンセリングや認知行動療法といった心理療法によって、症状が改善する例も少なくありません。特に軽症のうつ病や不安障害などでは、薬を使わず心理療法だけで良くなる場合もあります。

一方、精神疾患を「脳の病気」として捉える立場は、脳科学や神経生物学の視点に基づいています。近年の研究により、精神疾患の背景には神経伝達物質や脳機能の異常が関与していることが明らかになってきました。
この立場にも、次のような根拠があります。
1. 脳の働きと精神疾患の関係が解明されてきた
例えば、統合失調症ではドーパミンの過剰な働きが関係すると言われており、うつ病ではセロトニンの不足が関与することが多くの研究で示されています。
2. 脳内物質に着目した薬物療法の有効性
これらの脳の理論に基づいて、セロトニンを増やす抗うつ薬や、ドーパミンの作用を抑える抗精神病薬などが開発され、実際に治療の中心として広く用いられています。
3. 心理的説明が難しい障害がある
特に発達障害などでは、心理的要因だけでは説明が困難な、生まれつきの特性が見られます。これは、脳の発達や機能の違いに基づくものであり、「脳の特性」として理解されることが多いです。
では、精神疾患は「心の病気」なのか「脳の病気」なのか――その答えは、実は一つではありません。精神疾患の種類によって、「心」の側面が強く出るものもあれば、「脳」の要素が主となるものもあるのです。
以下に代表的な疾患を分類してみましょう。
発達障害は、生まれつきの脳機能の違いが関係する障害です。これは心理的な問題や育て方によるものではなく、近年の研究でも、神経発達に関する特性が指摘されています。ただし、現時点ではまだ分からないことも多く、治療においても薬物療法には限界があるのが実情です。特にADHD(注意欠如・多動症)には有効な薬がありますが、自閉スペクトラム症などでは、薬よりも環境調整や支援が重視されます。

精神疾患とは、単に「心が弱い」とか「脳が壊れている」といった一面的な見方では捉えきれない、非常に複雑で多様な現象です。「心の病気」としての側面、「脳の病気」としての側面、その両方が交差しているのが精神疾患の本質といえるでしょう。
そして大切なことは、どちらか一方に偏るのではなく、その疾患の性質に応じて、適切な診断と治療を受けることです。薬だけでなく、心理的な支援や環境の調整など、多角的なアプローチが必要なのです。
精神疾患を正しく理解し、偏見なく支え合える社会の実現に向けて、私たち一人ひとりができることを考えていきたいものです。