うつ病や不安障害の治療に携わるなかで、「考えすぎてしまう」というご相談をいただくことは少なくありません。ひとくちに「考えすぎ」といっても、その内容や背景にはさまざまな違いがあり、一様に語れるものではありません。本稿では、考えすぎてしまう主な原因を5つに分けて丁寧に解説し、最後に対処のヒントをご紹介いたします。

まず、「考えすぎ」がつらさにつながる理由として特に注意したいのが、堂々巡りとなる反芻(はんすう)思考です。これは、うつ病や不安障害の症状としてしばしばみられるもので、何かに気を取られて思考が止まらなくなり、結果としてさらに不安が増してしまうという悪循環に陥ります。

ここで重要なのは、「建設的に考える」ことと「反芻思考」との違いを理解することです。前者は問題解決のための思考であり、考えることで物事が前進し、ストレスの軽減や気分の改善にもつながります。一方、後者は同じことを何度も繰り返し考えるだけで、解決には至らず、むしろ不安や落ち込みが強まる傾向があります。

このように、「考えること」がすべて悪いわけではありません。むしろ、質の高い思考は心理的にもプラスに働きます。しかし、反芻思考に陥ると、気持ちが停滞し、精神的に疲弊してしまうのです。
それでは、なぜ人は「考えすぎてしまう」のでしょうか。ここからは、その代表的な5つの原因について具体的に見ていきます。

1. 過去の嫌な出来事
過去のつらい経験がふとした拍子に思い出され、それに心が巻き込まれてしまうことがあります。人間関係のトラブルや大きな失敗、予期せぬショックなどがその例です。これらは、何年経っても記憶のなかで色濃く残り、再びその感情を「追体験」してしまうことがあります。

過去は変えられないにも関わらず、思い出すたびに強いストレスを伴い、不調の原因となることが多いのです。しかも、思い返すことで何かが解決されるわけではなく、ほとんどがマイナスの影響となります。
2. 考えやすい性格傾向
もともとの性格として、物事を深く考え込みやすい方もいらっしゃいます。慎重で責任感が強く、あらゆる可能性を事前に想定して行動しようとする方に多く見られる傾向です。
この性格傾向には良い面もあります。たとえば、緻密な計画が立てられる、多角的に物事をとらえられる、衝動に流されず冷静な判断ができる、などの強みです。
しかし、その反面、考えすぎるがあまりに行動が遅れたり、決断に迷いが生じたり、ストレスを溜め込みやすくなるという側面もあります。また、ストレスが過剰にかかると、うつや不安などの症状が表れることもあります。

3. うつ病による思考の偏り
うつ病の方は、特に過去の出来事にとらわれてしまう傾向があります。うつ病とは、脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の機能が低下することによって引き起こされる心の病です。抗うつ薬や休養によって改善が見込まれます。
うつ状態では「全か無か思考」(一部失敗しただけでも全体がダメだと感じる)や、「べき思考」(こうあるべきという強い思い込み)、そして「反芻思考」などの認知のクセが目立ちます。こうした偏った考え方により、自分を責めたり、失敗を繰り返し思い出して落ち込んだりする悪循環が生じます。

4. 不安障害による未来への過度な心配
不安障害とは、現実的な範囲を超えた強い不安によって日常生活に支障をきたす精神疾患です。ここでもセロトニンの関与が示唆されており、SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)による治療が行われます。

不安障害の特徴は「未来への心配」が主軸である点です。「失敗するのでは」「病気になるのでは」「事故に遭うのでは」など、まだ起きてもいない出来事について強い不安を感じ、それを何度も繰り返し考えてしまいます。これが反芻思考の形をとって現れ、さらに不安が増していくという悪循環に陥ります。

5. 発達障害(ASD)による思考のこだわり

自閉スペクトラム症(ASD)を持つ方は、特定の出来事やテーマに強くこだわり、過去の出来事を詳細に思い出してしまうことがあります。また、一度気になったことに対して思考が切り替えにくいという特性もあります。

ASDには特効薬がないため、日々の工夫や支援が重要です。嫌な記憶を繰り返し思い出し、それにこだわることによって精神的に不安定になってしまうことが少なくありません。環境調整や支援体制の工夫が鍵となります。
考えすぎてしまう自分を責めるのではなく、まずは「気づく」こと、そして「意識的に別のことに集中する」ことが、反芻思考からの脱却の第一歩です

自分が今、ぐるぐる思考に陥っていることにまず気づくことが重要です。マインドフルネスのように、今この瞬間の自分の思考状態に注意を向ける練習が効果的です。

「考えすぎ」に気づいたら、趣味や運動、掃除や家事などの具体的な行動に意識を向けてみましょう。

小さなことで構いません。繰り返すうちに、思考の切り替えが少しずつ楽になります。

「考えすぎてしまう」背景には、以下の5つの原因がよく見られます。
それぞれの背景に応じて、適切な理解と支援が必要です。まずは「自分は今、反芻思考に陥っているかもしれない」と気づくこと。そして、その思考から離れて、現実の感覚に戻るための工夫を重ねることが、心の安定につながっていきます。
