発達障害という言葉を耳にする機会が増えてきた現代社会において、「ASD(自閉スペクトラム症)」と「ADHD(注意欠如・多動症)」は特によく知られた2つのタイプである。いずれも生まれつきの脳の特性に由来し、日常生活や人間関係にさまざまな影響を及ぼすことがある。これらの障害は合併することもあり、共通点も多く見受けられるが、一方で異なる点も明確に存在している。
今回は、ASDとADHDの違いを5つのポイントから整理し、それぞれの特性に応じた理解と対応の重要性について掘り下げていく。
まずASDとADHDの基本的な特徴を確認しておこう。発達障害とは、生まれながらにして脳に独自の発達傾向があり、得意なことと苦手なことの差が大きく現れる状態を指す。発達の偏りが学校生活や仕事、人間関係などに影響を及ぼしやすく、環境やストレスの影響によってうつ病などの二次障害が生じるリスクもある。
ASDは、対人関係に関わる「社会性の障害」と、特定のものに強く固執する「こだわり」の傾向を持つ。たとえば、空気を読まない発言や特定の行動に固執する様子が見られる。
ADHDは、「不注意」「多動性」「衝動性」の3つの特徴が中心である。忘れ物が多く、感情のコントロールが難しい場面もあり、場面に応じた行動の切り替えが苦手な傾向を持つ。
共通点としては、どちらも感覚過敏や過集中といった感覚的な特徴を示すことがあり、社会生活における困難を抱えやすいという点がある。

ASDは社会的な暗黙のルールが理解しにくく、人との関わりにおいてつまずきやすい。さらに特定のものへの過度なこだわりが行動に現れる。対してADHDでは、注意力の維持が難しく、衝動的な行動や感情の爆発が目立つ。
ただし、似たような症状が両者に見られる場合もある。例えば、ASDでも興味のないことに対しては不注意が生じやすく、ADHDでも興味のある物事に対して強い執着を示すことがある。このように、症状が似ていても背景にある理由は異なる点に注意が必要である。
ADHDには治療薬が存在し、「アトモキセチン」などが代表的である。これらは多動性や衝動性の軽減に一定の効果を示す。一方、ASDに関しては、特性そのものを改善するための薬は存在しない。うつ症状などの二次障害が併発している場合には、適応された薬が用いられることがあるが、ASD特有の社会性の障害やこだわりに直接効く薬は現在のところ存在していない。
そのため、ADHDでは薬物療法と環境調整の併用が基本となるが、ASDでは主に行動療法や対人スキルトレーニングといった非薬物的な支援が中心となる。
ASDの人は対人関係を築くこと自体が難しいことが多く、第一印象から誤解されることがある。たとえば、場の空気を読めずに場違いな発言をしてしまったり、目線や表情といった非言語的なサインの読み取りが困難であったりする。
対してADHDの人は、人との関わりを始めること自体は得意である場合が多い。活発に話しかけることができるため、関係を築く場面では問題が生じにくい。しかし、関係が長期化すると、衝動的な言動や感情の爆発により関係が崩れることがある。つまり、ASDでは関係を築けないことが課題になりやすく、ADHDでは関係を維持することが難しくなりやすい。
同じような症状が見られても、その原因は大きく異なることがある。たとえば、業務中のミスについて考えてみる。ASDでは、複数の作業を同時に処理することが苦手なため、マルチタスクを求められると処理が追いつかずミスが発生しやすくなる。一方ADHDでは、不注意によるケアレスミスが頻発する。
また、イライラの原因についても差がある。ASDの人は、決まった流れやルールにこだわる傾向が強く、それが崩れると大きなストレスとなり怒りに転じることがある。ADHDの人の場合、ストレスがかかった瞬間に衝動的に感情が爆発しやすい。
組織に馴染みにくい理由も異なる。ASDでは社会的ルールを理解しにくい特性が背景にあり、ADHDでは約束を忘れてしまう、不適切な発言をしてしまうといった行動が要因になる。
ASDの特性は継続的に現れる傾向があるため、トラブルも繰り返しやすい。たとえば、自身のこだわりを他者に押しつけてしまい、同じような摩擦が何度も生じることがある。また、社会的なルールの理解不足や対人スキルの未習得により、相手から誤解されることも少なくない。
ADHDの場合は、突発的な感情の爆発やその場の衝動的な行動が原因でトラブルが生じやすい。急な怒りや失言、不注意によるミスが典型例である。
対応策としては、ASDでは行動パターンの修正や対人スキルの習得など、地道な練習を重ねる方法が求められる。たとえば、社会的ルールをマニュアルで学んだり、表情や話し方を観察しながら練習する方法がある。
ADHDに対しては、怒りの感情をコントロールするためのアンガーマネジメントや、衝動を感じたときに一歩引く訓練、集中が切れたときに気づいて修正する反復練習などが有効である。
ASDとADHDは別個の障害と捉えられがちだが、実際には両方の特性を併せ持つケースも少なくない。合併率は約2〜3割とも言われており、それぞれの特性が相互に影響を及ぼすことで、より複雑な症状となることがある。
こうした場合には、どちらの特性が主に影響しているかを見極めることが必要になる。どちらが優勢か、あるいは両方が影響しているのかを判断した上で、それぞれの特性に応じた対応策を講じることが重要となる。

ASDとADHDはともに発達障害であり、似ている部分もあるが、症状の現れ方や背景、対人関係への影響、そして対処法には明確な違いが存在する。今回取り上げた5つの違い──主な症状、薬の有無、対人場面の困難、類似症状の背景、トラブルへの対応法──を理解することで、自分自身や周囲の人の特性をより的確に把握できるようになる。
重要なのは、特性の違いを単に「区別」するのではなく、その特性に応じた支援や工夫を行う視点で捉えることである。個々の困難に向き合いながら、より良い生活や人間関係を築いていくための第一歩となる理解が、ここから始まっていく。