~自分らしく生きるために~
近年、「大人の発達障害」という言葉が広く知られるようになりました。
子どものころには特に目立った問題がなくても、社会に出てから職場での人間関係のつまずきや仕事のミスの多さなどをきっかけに、発達障害と診断されることがあります。
しかし、大人になってから発達障害に気づくと、特効薬がない現実や、子ども時代のような療育支援が少ないことに戸惑いを感じる方も少なくありません。
では、この現実の中で、私たちはどう生きていけばよいのでしょうか。
ここでは、大人の発達障害を乗り越えるための5つのコツを丁寧に解説していきます。

大人の発達障害に向き合う第一歩は、自分自身の特性を「受け入れること」です。
この「受け入れ」は、想像以上に難しいものです。「自分は障害なんてない」「今まで頑張ってきた自分を否定するようでつらい」と感じる方も多いでしょう。中には、自分の言動が他人を傷つけてきたという後悔や罪悪感を抱える方もいます。
しかし、受け入れがないと、対策や改善の取り組みがうまく進みません。まずは「自分にはこうした特性がある」という現実を冷静に見つめ直すことが、すべての出発点です。
受け入れがないまま放置してしまうと、他人との関係にも悪影響が出る可能性があります。例えば、ASD(自閉スペクトラム症)の特性による空気を読まない発言でパートナーを苦しめる、ADHD(注意欠如・多動症)の衝動性が原因で職場でのトラブルを繰り返す――そうした状態を放置すると、結果的に「カサンドラ症候群」や「職場いじめ」などの二次的な問題を生むこともあります。
「今からでも変われる」「変わっていこう」とする姿勢こそが、大人の発達障害において最も重要な第一歩なのです。

発達障害の特性に気づき、受け入れたとしても、すぐに結果が出るとは限りません。むしろ、理解されづらく、取り組みが孤独に感じられることもあります。
だからこそ、誰よりも自分自身が、自分を信じてあげることが大切です。
発達障害に限らず、困難な道のりでは「一人目の親友は自分自身である」という言葉が当てはまります。周囲からの理解が得られない時期があっても、直面するつらさから逃げず、向き合おうとしている自分自身の姿勢を信じる――それが、持続的な取り組みの原動力になります。
ただし、ここでいう「信じる」とは、現実から目をそらして「自分は間違っていない」「正しいはずだ」と思い込むことではありません。むしろ、間違いがあれば修正する、自分自身へのフィードバックを忘れない、という健全な自己信頼のことです。

発達障害のある方の中には、自分本位になりやすい傾向を抱える人もいます。これは決して「わがまま」なのではなく、「相手の立場に立つ」「空気を読む」といった社会的な感覚が苦手なために、結果として誤解を招いてしまうということが多いのです。
だからこそ、「誰かのために動く」という意識が極めて重要になります。
人間関係は「信頼残高」という言葉で表されるように、相手に与えることが多いほど好かれ、奪うことが多いと距離を取られます。ADHDやASDの特性がある人は、「取り繕うこと」が苦手なため、本心がそのまま相手に伝わってしまいやすいのです。つまり、誠実さと利他の精神がなければ、嫌われやすくなってしまいます。
その一方で注意したいのが、「テイカー(奪う人)」の存在です。利他的に接することは大切ですが、それを逆手に取って搾取してくる人もいます。経験を重ねることで、誰にどれだけ与えるか、というバランス感覚も身につけていくことが重要です。

発達障害の特性改善には、「一気に変える」ことよりも「少しずつ積み重ねる」ことが重要です。
PDCAサイクル(Plan・Do・Check・Act)という言葉があります。計画し、行動し、結果を確認して、修正していく。この繰り返しの中でしか、自分の特性に合った改善は見つかりません。
たとえば、メモを取る習慣を身につける、相手の話を最後まで聞く、感情が高ぶったときに深呼吸をする――こうした一つひとつの実践は小さなことかもしれませんが、それを何十回、何百回と繰り返すことで、確実に自分の中に定着していきます。
続けるためには「熱量」と「軸(動機)」が必要です。「自分の成長のために」「大切な人との関係を良くしたいから」という軸があれば、取り組みに意義を見出せます。さらに、自分を信じる心、そしてときには自分を俯瞰する冷静な視点も持ちながら、地道な改善を重ねていくことが求められます。

ここまで述べたような取り組みは、大人の発達障害を乗り越える上で非常に重要です。しかし、それでも限界を感じることがあるかもしれません。そうした場合には、無理をせず、積極的にサポートを受けることもまた一つの選択肢です。
現在は、大人の発達障害に対する社会的支援も徐々に整ってきています。
たとえば、就労に関する支援では「就労移行支援」などの制度があり、特性を理解した上での職業訓練やマッチングが行われています。障害者雇用枠での就労では、発達障害の特性を職場があらかじめ理解してくれている場合も多く、安心して働ける環境が得られることもあります。
また、生活上の困難が強い場合には「訪問看護」など、医療職が定期的に家庭を訪れ支援してくれる制度も存在します。
「努力が足りないから辛いのではなく、環境が合っていないだけ」という場合も少なくありません。困難を抱えているときほど、「一人で抱え込まず、助けを借りる」という姿勢を持つことが大切です。
大人の発達障害は、子どもの頃とはまた違った困難があります。しかし同時に、人生経験を積み、自分の意思で向き合っていけるという強みも持っています。
この5つのコツを心にとめて、焦らず一歩ずつ取り組んでいくことが、発達障害とともに生きる上での大きな助けとなるでしょう。
あなたの歩みが、少しでも穏やかで力強いものになるよう、心から願っています。