今回は、自閉症スペクトラム(ASD)の特性のひとつとしてしばしば見られる「顔つき」や「表情の特徴」について、丁寧にご説明いたします。社会性の障害や強いこだわりといったASDの主要な特性は、対人交流の際の見た目や表現の仕方にも影響を与えることがあります。ただし、こうした情報は、当事者の理解や支援を目的としたものであり、決して差別や揶揄の材料として用いるべきではないことを、まずは強調させていただきます。
ASD(Autism Spectrum Disorder/自閉症スペクトラム障害)は、生まれつきの神経発達の違いにより、「社会性の障害」と「強いこだわり」という二つの主な特性がみられる発達障害です。乳幼児期に発見されることもありますが、成人後に社会適応の困難さから診断されるケースもあります。
ASDの方は、他者との交流に難しさを感じる傾向があり、その特性は表情やしぐさ、言葉の選び方にも現れることがあります。
ASDの特性は外見的にも現れることがあり、特に「表情の乏しさ」「目が合いにくいこと」「場にそぐわない表情」という三つの側面が指摘されています。
① 表情が乏しい
ASDの方は、感情と表情を連動させることが難しい傾向があります。そのため、顔の筋肉が動きにくく見える、表情の変化が乏しいと感じられることがあります。また、感情が表れるまでのタイムラグがある、あるいは適切な場面での表情の出し方にズレが生じることもあります。
このような特徴があると、相手との感情の共有が難しくなり、結果として人間関係の構築が難しくなることもあります。さらに、「冷たい」「感情がない」「無関心」といった誤解を招く可能性も否定できません。

こうした表情の乏しさの背景には、自身の感情を認識しづらいという内的な要因や、状況に応じて柔軟に表現を切り替えることの難しさが関係していると考えられています。
② 目が合わない(アイコンタクトの困難)
ASDの方は、アイコンタクトを取ることに苦手さを感じることが多く見られます。この特徴は、ASDの診断基準にも含まれるほど代表的なものです。
アイコンタクトが取りづらい理由はさまざまですが、たとえば視覚的な刺激に対して敏感である場合や、目を見ることに強い不安や緊張を感じてしまうことが挙げられます。また、聴覚情報を優先するため、視覚的な情報を意識的に避けるという人もいます。
目を合わせないことにより、「相手に興味がないのでは」「自信がない」「反抗的である」といった誤解を受けることがありますが、これはASDの感覚や情報処理の特性によるものであり、意図的なものではありません。
③ 場にそぐわない表情
ASDの方は、社会的な文脈に沿った表情を選ぶことが難しいことがあります。たとえば、悲しみの場面で笑ってしまう、喜ばしい状況で無表情になるなど、感情と表情のずれが見られる場合があります。
このような表情のズレは、相手にとっては不自然に感じられ、場合によっては「無礼」「不真面目」「挑戦的」と受け取られてしまうこともあるでしょう。
背景には、「その場にふさわしい表情とは何か」を直感的に理解することの難しさや、自身の感情を正確に把握・表現する困難さが影響しています。
ASDの特性は、本人にとっても周囲にとっても「誤解されやすい」性質を持っています。ですので、周囲が適切な理解と対応を心がけることがとても重要です。
額面通りに受け取らない
ASDの方の表情が他者と異なるとしても、それがその人の人柄や感情をそのまま表しているとは限りません。表情の動きや目線など、表面的な要素よりも、その人の言動や思いやり、誠実さを行動で見極めるようにすることが大切です。
差別や決めつけをしない
表情やアイコンタクトの困難さは、その人の意志とは無関係なものであり、障害による特性です。安易に「変わっている」「冷たい」「怖い」といった否定的なレッテルを貼ることなく、多様な特性の一つとして受け入れる姿勢が求められます。
本人との対話が可能な場合は配慮して話す
関係性が築けた後で、本人に対して表情や表現について話し合う機会を設けることも、有効な支援につながる場合があります。表情が相手にどう伝わるか、その重要性を本人が理解できれば、自己改善に向けた意識が芽生えることもあります。
自分にASDの傾向があると感じる方にとっても、自身の特性を理解し、対人関係の円滑化を目指す努力は決して無意味ではありません。
自身の特徴を自覚する
まずは「自分の表情が乏しいかもしれない」「目が合いにくいかもしれない」「場に合った表情ができていないかもしれない」といった特徴を自分で意識することが出発点となります。
練習とモデリング
表情を豊かにする練習としては、表情筋を意識的に動かすトレーニングが効果的です。また、表情豊かな人のしぐさを観察して真似をする「モデリング」も役立ちます。自分の感情を意識し、それを表現する練習を重ねることで、少しずつ改善する可能性があります。

環境を調整する
ASDの特性は完全に「治す」ものではありません。ですので、特性を理解した上で、自分にとって過度な負担とならない職場や生活環境を選ぶことも重要です。表情やアイコンタクトが強く求められる場では無理をせず、自分の能力が評価されやすい環境を整えることが現実的な対策です。
結びにかえて
ASD(自閉症スペクトラム)の方にみられる顔つきや表情の特徴として、「表情が乏しい」「目が合いにくい」「場にそぐわない表情」といったものが挙げられます。これらは決してその人の性格や意図を示すものではなく、生まれつきの特性として現れているものです。
周囲の人々は、その人を表面上の印象で判断するのではなく、行動や人柄を通して理解し、支え合っていくことが求められます。また、当事者も自分の特性を理解し、可能な範囲での工夫や練習を通じて、より良いコミュニケーションを築いていく努力を続けていくことが大切です。

相互理解と配慮をもって、ASDを持つ人もそうでない人も共に生きやすい社会を目指していけたらと願います。