日々の生活の中で、何度も失敗を繰り返したり、周囲から否定的な言葉をかけられ続けると、「どうせ自分なんて……」という思いが根を下ろしてしまうことがあります。こうした経験の積み重ねから生じるのが「学習性無力感(learned helplessness)」です。
この学習性無力感は、一度身につくと「行動の意欲を奪い」「否定的な思考を強化し」「チャレンジする力を奪う」という悪循環を生み出します。慢性化すると、さまざまな精神疾患の引き金になるリスクがあり、早期の気づきと対処が求められます。
この記事では、学習性無力感のメカニズムと、その影響によって引き起こされやすい精神疾患5つについて、丁寧に解説していきます。

学習性無力感とは、繰り返される失敗や否定的な体験を通じて「自分は何をやっても無駄だ」と感じるようになってしまう心理状態を指します。心理学者セリグマンが行った動物実験で初めて概念化されました。
人間においても、以下のような経験がきっかけになります:
一見、親切や助言のように見える言葉でも、その根底に否定的な態度が含まれていると、本人には「やっぱりダメなんだ」と受け取られてしまうこともあります。

学習性無力感が深まると、以下のような心理状態が現れやすくなります。
こうした状態が続くと、心のエネルギーは消耗し、次第に精神疾患のリスクが高まっていきます。

1. うつ病
学習性無力感と最も関係が深いのがうつ病です。自己否定や「何をやっても無駄」という思考が続くと、脳のセロトニン分泌にも悪影響を与え、うつ症状が現れます。さらに、回避行動が強まるとストレスの発散も難しくなり、慢性化する恐れもあります。
補足として、うつ病未満のうつ状態が長く続く「気分変調症」にも学習性無力感が大きく関わっているとされています。
2. 適応障害
適応障害とは、ストレス要因にうまく対応できず、うつや不安などの症状が現れる状態です。学習性無力感によってストレス耐性が低下すると、環境の変化に対応しづらくなり、再発もしやすくなります。
「どうせうまくいかない」と自分でストレスを増幅させてしまうケースもあるため、思考の癖を見直すことが重要です。
3. 不安障害
不安障害とは、過剰な不安や緊張によって日常生活に支障をきたす状態で、全般性不安障害やパニック障害などが含まれます。
学習性無力感によって「自分には困難を乗り越える力がない」と感じるようになると、不安を強く感じやすくなり、問題への対処が困難になってしまいます。回避行動が増えると生活の範囲も狭まり、さらに不安が強化されるという悪循環に陥りやすくなります。
4. パーソナリティ障害
学習性無力感が長期にわたって持続すると、「性格的な偏り」として固定されることもあります。とくに以下のパーソナリティ障害との関連が深いと考えられています:
これらは幼少期の否定的体験や、継続的な無力感の積み重ねが一因となることがあります。
5. 発達障害の二次障害
発達障害(ADHDやASD)そのものは脳の特性ですが、周囲との不適応が続くと、自己否定が深まり、学習性無力感につながることがあります。その結果、うつや不安などの「二次障害」を発症するリスクが高まります。
発達障害の方が「自分はダメだ」と思い込んでしまう前に、特性を理解した支援や環境調整を受けることが、二次障害を防ぐ大きな鍵となります。
学習性無力感を乗り越えるためのキーワードは、「無力ではないことを再学習する」ことです。そのためには以下のような取り組みが効果的です。
「できた」「うまくいった」という小さな経験を意識して重ねていくことで、過去の否定的な体験を上書きし、自己効力感(自分にはできるという感覚)を回復していきます。時間はかかりますが、地道な積み重ねが回復の近道です。
できる限り、否定的なフィードバックの少ない環境や、前向きにサポートしてくれる人と関わることが重要です。人間関係の見直しも回復の一助になります。
十分な睡眠・栄養・運動など、心身の健康を保つ土台を整えることは、心の回復にも直結します。ストレスマネジメントやリラクゼーション法も併用するとより効果的です。

うつ病や不安障害などを合併している場合には、医療機関でのカウンセリングや薬物療法も必要です。専門家の支援を受けながら、自分のペースで回復を目指しましょう。
学習性無力感は、誰もが陥る可能性のある心理状態です。失敗や否定の繰り返しは確かにつらいものですが、そこから抜け出す道も確実に存在します。
「小さな一歩」を繰り返すことで、失われた自信や希望は、少しずつでも取り戻すことができます。今感じている無力感は「一時的なもの」であり、丁寧に向き合うことで変えていけるものだということを、どうか忘れないでください。