
私たちは日々の生活の中で、さまざまなことを学びながら成長していきます。新しい知識や技術、人生の知恵や人との関わり方も、すべて「学習」の積み重ねによって身につけていると言えるでしょう。しかし、学ぶことがいつも良い方向へとつながるとは限りません。中には、「自分はどうせ何をやってもダメだ」といった否定的な思い込みが心に刻まれてしまうことがあります。このような状態は「学習性無力感」と呼ばれ、日常生活に深刻な影響をもたらすことがあります。
今回は、心療内科や精神医学の分野でも重要な概念とされる「学習性無力感」について、その起源や影響、そして予防と改善のためのヒントまでを丁寧に解説していきたいと思います。

「学習性無力感(learned helplessness)」とは、繰り返される失敗体験や否定的な経験を通じて、「何をしても無駄」「自分にはどうすることもできない」といった無力感を学習してしまう心理状態を指します。つまり、人が本来持っている意欲や能力を、自ら信じられなくなってしまう状態です。
これは、1970年代にアメリカの心理学者マーティン・セリグマン博士によって提唱された概念です。博士は動物実験を通して、犬に回避不能な電気ショックを与え続けると、逃げ道が用意されても自ら避けることを諦めてしまう、という現象を確認しました。これと同じように、人間も自分ではどうにもできない苦痛や困難に繰り返しさらされると、「どうせ自分にはできない」と考えるようになり、やがて努力すること自体をやめてしまうようになるのです。

ある高校生のAさんは、中学時代までは勉強が得意で自信を持っていました。しかし進学校に進んだ後、自分より成績の良い生徒が周囲に多く、マウンティングのような言動にさらされる日々が続きました。そのうち、Aさんは「どうせ自分は劣っている」「努力しても無駄だ」と感じるようになり、次第に学習への意欲を失い、勉強を放棄してしまいました。
卒業の頃には、自分が本来積み重ねられたはずの努力を怠ってしまっていたことに気づき、強い後悔と自己否定の念にとらわれました。これがまさに学習性無力感の典型的な現れ方です。
学習性無力感にはいくつかの背景要因があります。主に以下のような体験が関与するとされています。

学習性無力感は、単なる「やる気がない状態」ではありません。心と体、そして社会的な行動に広範な影響を及ぼします。



学習性無力感は、いくつかの精神疾患と深く関係しています。特に以下のような疾患との関連が指摘されています。

学習性無力感は、個人の精神だけにとどまらず、社会生活にも大きな支障をきたします。

無力感に陥らないためには、日頃からの心がけが大切です。

学習性無力感は、適切な方法をとることで「学習し直す」ことが可能です。


「学習性無力感」という言葉には少し専門的な響きがありますが、実は誰の心の中にも起こりうる、ごく自然な心理現象です。もしあなたや身近な人が、「どうせ私なんて……」という思いに囚われているとしたら、それは心が発するSOSかもしれません。
人は何度でも学び直すことができる存在です。小さな一歩を大切に、無力感に支配されない人生を取り戻すことは、決して不可能ではありません。