受動型ASD

受動型ASD

受動型ASDとは?流されやすさと適応のしんどさを抱える人たち

自閉スペクトラム症(ASD)といえば、こだわりが強く、自分の考えを周囲に押しつけるような印象を持たれることがあります。「マイペースで周囲に構わず話しかけてくる」「自分の世界に閉じこもっている」といったイメージも根強いかもしれません。しかし、そのような特徴が目立たない一方で、周囲に過剰に合わせてしまい、自分を見失いやすい“受け身”のタイプのASDも存在します。今回はこの「受動型ASD」について詳しく解説していきます。

受動型ASDとはどのような特性か

受動型ASDとは、ASDの中でも特に「受け身」「流されやすい」「自己主張が少ない」といった傾向が強いタイプです。一見おとなしく、周囲と調和しているように見えることも多く、幼少期には問題視されにくい傾向があります。

たとえばAさんというケースを考えてみましょう。Aさんは幼い頃からおとなしい子と言われてきました。グループ活動には表面上は参加していましたが、話の内容はよくわからず、ただ頷いてやり過ごしていたそうです。進学や就職も周囲の勧めに従って選びましたが、自分の希望とはズレていたため、やりがいを感じられず、過酷な仕事も断れず体調を崩してしまいました。交際関係でも強く束縛されたり、騙された経験があり、自分の人生を振り返ると「泣いていた時間の方が長かった」と語っています。

こうした背景には、受動型ASDの「合わせる傾向」と「自己表現の苦手さ」が強く影響しています。

ASDの分類と受動型の特徴

ASDにはいくつかのタイプがあります。代表的なものとして以下が挙げられます。

  • 積極奇異型:一方的に話す、自分ルールを押し通す。
  • 孤立型:他者との関わりを避け、自分の世界に閉じこもる。
  • 尊大型:他者を見下すような態度や言動が目立つ。
  • 大仰型:礼儀正しいが大げさで不自然な振る舞いが多い。
  • 受動型:受け身で自分からは動かず、他人に合わせて行動する。

この中で、受動型は一見目立たずトラブルも少ないため、発見が遅れがちです。特に女性に多いとされ、十代や成人期になってからうつ病や不安障害などの「二次障害」で初めて気づかれることもあります。

受動型ASDの主な特徴

受動型ASDの主な特徴

1. 周囲に合わせてしまう

他人の意見や要求に過剰に従い、自分の意思を示すことが苦手です。断ることができず、「頼まれると断れない」「違和感があっても流されてしまう」といった状況に陥りやすいです。そのため、一見すると協調性が高くトラブルが少ない印象を与えるものの、悪意のある人に付け込まれやすいというリスクも抱えています。

2. 自己表現が苦手

自分の考えや気持ちを言葉にすることが難しい傾向があります。これは「自分の軸」が見えづらいことや、脳の特性として「言語化する力」が弱いことが関係しています。その結果、意見を求められても答えられなかったり、自分の希望を伝える機会を逃してしまうことがよくあります。

3. 実はこだわりがある

ASDの本質的な特性として「こだわりの強さ」は受動型でも存在しています。ただ、表には出さず、他人に合わせて妥協することで自分の内面に葛藤を抱えやすくなります。その結果、納得できないまま従ってしまい、強いストレスとなることもあります。

長所と強み

長所と強み

受動型ASDの方には以下のような強みがあります。

  • 他人との交流が可能:孤立型のように極端に人を避けることは少なく、関係性は築きやすいです。
  • 周囲に不快感を与えにくい:控えめで穏やかな態度は、多くの場面で安心感を与えます。
  • 適応力がある:相手に強いこだわりがなければ、柔軟に対応することができます。

これらの点から、安心できる人間関係や支援体制が整えば、十分に社会生活を送ることが可能です。

短所とリスク

短所とリスク

一方で、受動型ASDには以下のような弱点も存在します。

  • 悪意に対する防御力が弱い:断ることが苦手なため、不当な扱いや搾取、DVやモラハラ被害に遭いやすいです。
  • 自己表現の困難:自分の考えを伝える力が弱く、他人から軽視されるリスクがあります。
  • 二次障害が起きやすい:ストレスを感じても発散できず、うつ病や不安障害などの精神的不調を起こしやすくなります。

弱点への対策と自分を守る力を育てるには

受動型ASDの方が安心して生活するには、以下の3つのスキルが重要になります。

1. 断るスキル

断ることが苦手な受動型の人にとって、「上手に断る技術」は最重要課題です。実際には「はっきりNOを言う」よりも、「やんわり断る」「保留する」「別案を出す」といった柔らかい方法でも効果があります。最初は難しく感じますが、繰り返し練習することで身につけられます。

2. 自己理解と表現の練習

過剰に他人に合わせ続けていると、自分が本当は何を望んでいるのか分からなくなってしまいます。まずは一人の時間を大切にして、「自分の好き・嫌い」や「こうしたい」という気持ちを見つける作業が重要です。また、信頼できる相手との会話を通じて表現の練習をするのも効果的です。

3. ストレスマネジメントの徹底

受け身な性格と自己表現の困難さから、ストレスを抱え込みやすいのが受動型ASDの特性です。そのため、日常的にストレスを溜めない・発散する・耐性をつけるなど、ストレスマネジメントを意識して実践していくことが重要です。

中でも「人間関係や環境の選択」は特に重要なポイントです。自分を利用せず、尊重してくれる人と付き合うことで、大きなリスクを避けやすくなります。

自己理解が進んだ先に

自己理解が進んだ先に

受動型ASDの方が自己理解や表現を深めていくと、場合によっては「大仰型ASD」のようなスタイルに変化していくことがあります。つまり、これまでの控えめな姿勢から一転して、礼儀正しいがやや不自然な振る舞いが目立つようになるケースです。これは努力の結果ともいえますが、「不自然さ」や「空気の読めなさ」を揶揄されることもあります。

それでも、自分の考えを持ち、適応しようと努力する姿勢は確かな成長です。自分の限界と努力の成果をバランスよく見つめ、自己信頼を育てていくことが重要です。

まとめ

受動型ASDとは、一見目立たず周囲に合わせやすいタイプのASDです。人とのトラブルは少ないものの、断れなさや自己表現の困難から、悪意に巻き込まれたり、二次障害を抱えるリスクが高くなります。

このタイプの方にとって大切なのは、「自分を守る力」を育てることです。具体的には、断るスキルを学ぶこと、自己理解と表現の練習を積むこと、そしてストレスマネジメントを徹底することです。

適切な支援と環境が整えば、受動型ASDの方も安心して自分らしく生きることができます。そのためにまずは、「自分を知る」ことから始めてみてはいかがでしょうか。