今回いただいたご質問は、「境界知能です。今は楽しく過ごせています」というものです。
このように日々の暮らしを前向きに過ごしておられる姿勢は、とても素晴らしいものです。
まずお伝えしたいのは、「今いる場所をどうか大切にしてください」ということです。無理に変えようとせず、今の穏やかさを軸に、必要な知識と対策を知っておくことがとても大事です。
「境界知能」とは、いわゆる知的障害には該当しないものの、知的な困難が見られる状態を指します。医学的な基準で言えば、知能指数(IQ)が70〜84の範囲に入る方々が該当します。これは、平均がIQ100とされる中で、やや低めの範囲になります。
人口比で見ると、およそ13%の人が境界知能の範囲に入るとされ、決して珍しいことではありません。
この状態の方は、努力しても勉強が苦手だったり、仕事が複雑になるとついていくのが難しくなったりすることがあります。特に、生活が入り組んでくるとつまずきやすく、子育てやお金の管理などで困難が目立つこともあると言われています。

ただし、知的障害と違い、診断名がつかず、障害者手帳などの制度的なサポートを受けられないことも多くあります。これが「支援の谷間」とも言われる理由です。
「どういう時に境界知能と気づかれるのですか?」という質問に対しては、「不適応が目立った時です」とお答えします。
例えば以下のような場面が挙げられます:
こうした背景を探っていく中で、知能検査(WAIS-IVなど)を実施し、IQが70〜84だった場合、境界知能と判断されることがあります。
ただし、IQだけではなく、実生活での適応状況や困難さもあわせて判断されます。
境界知能そのものに対する「治療薬」はありません。薬が使われるとすれば、それはうつ病や不安障害などの二次的な問題に対する治療になります。
大切なのは、本人にとって「過剰な負荷をかけない」ことです。
つまり、「今の限界の範囲で暮らせる環境を見つける」ことが最も重要なのです。
●オーバーワークになりやすい理由
境界知能の方は処理能力の上限があるため、無理な課題や複雑な業務を任されるとパンクしやすい傾向があります。
例えば、100メートルを15秒で走れる人に、12秒で走れと無理を強いると、故障や怪我の原因になります。実生活でも同じように、「自分に合わない要求」を無理して続けていると、不調が現れます。

このような状況を避けるために必要なのが、「自分に合った環境を選ぶこと」と「過剰なストレスから身を守ること」です。
境界知能の方が力を発揮しやすい環境には、いくつかの共通点があります。
●合いやすい環境の特徴
●向いている可能性のある仕事の一例
また、「誰かの役に立っている」と実感できる環境は、境界知能の方にとって自己肯定感を育む大切な要素です。小さなことであっても、人に喜んでもらえる実感は、大きな支えとなります。
境界知能の方が注意すべき点のひとつに、「テイカー」と呼ばれる、人から奪うことを当然とする人たちの存在があります。

悪意を持った人に近づかれやすい傾向があり、金銭や労力を利用されてしまうこともあります。特に対人関係での駆け引きや裏の意図に気づきにくい特性があるため、騙されやすくなってしまいます。
大事なのは、「危ない」と思ったら即座に距離を取ること。
加えて、相談できる相手や味方を持つことも、トラブルを避ける上での大きな力になります。
境界知能の方が安心して暮らすためには、社会全体が「不要な負荷を減らす工夫」をしていくことが求められます。
●具体的にできること
そして何より、当事者の「貢献したい」「前向きに生きたい」という気持ちを、社会が受け止められる環境を整えることが必要です。
境界知能は、IQ70〜84の間にある知的な困難で、障害とまでは認定されない一方で、日常生活や仕事においてつまずきやすい特性があります。
大切なのは、自分に合った環境を見つけること。そして無理をせず、他者貢献に集中し、搾取しようとする存在からは距離を取ることです。
今、あなたが「楽しく過ごせている」というその感覚こそが、最も信頼できる指標です。無理に変えるのではなく、「今」を大切にしてください。そして困った時は、周囲の力を借りることも忘れずに。