大仰型ASD

大仰型ASD

発達障害のひとつであるASD(自閉スペクトラム症)は、「こだわりが強い」「相手の気持ちを汲めない」など、しばしば自己中心的な印象で語られることがあります。しかし、実際にはそのような一面的な見方だけではASDの全体像はつかめません。

今回は、ASDの中でも「大仰型(たいぎょうがた)」と呼ばれるタイプについて取り上げ、その特性や背景、向き合い方について詳しく見ていきたいと思います。

■ 大仰型ASDとは?

「大仰型ASD」とは、日常的に明るく、丁寧に、やや大げさとも取れる振る舞いをする傾向があるタイプを指します。たとえば、他者から「無礼だと思われたくない」「感情が乏しいと言われたくない」と感じた結果、意識的に笑顔を保ち、表情を豊かにし、言葉遣いも過剰なまでに丁寧にする――そうした努力の末に形成された特性です。

このような行動は一見、良好な対人関係を築いているように見えます。しかし、当人にとっては常に気を張っている状態であり、心の負担も少なくありません。そして、その“丁寧さ”が時に不自然さとして受け取られ、かえって誤解を招いてしまうこともあるのです。

 大仰型ASDとは?

■ 大仰型ASDの一例

Aさんは、常ににこやかで、誰に対しても礼儀正しく接する人物です。多少無理をしている部分はあるものの、それを周囲に見せることはありません。そうした態度から、上司からの信頼も厚く評価されていました。

一方で、同僚の中には「上司に媚びているのではないか」と感じる人もおり、陰口やSNSでの揶揄などが生じてしまいました。それを目にしたAさんは、精神的に大きなダメージを受け、結果として職場に足を運べなくなってしまったのです。

大仰型ASDの一例

このように、「良かれと思って取っている行動」が、必ずしも全員に理解されるわけではないという現実があります。

■ ASDの5つのタイプ

ASDは、その特性の表れ方によって大きく5つのタイプに分類されるとされています。

  1. 積極奇異型:自分のルールに基づいて積極的に他者へ関わろうとするが、一方的になることが多い。
  2. 受動型:受け身で、人に流されやすく、意見を持ちにくい。
  3. 孤立型:社会的な交流を避け、自分の世界に閉じこもる傾向。
  4. 尊大型:他者を見下すような態度を取りがちで、対等な関係が築きにくい。
  5. 大仰型:今回取り上げる、どの場面でも過剰に丁寧で礼儀正しい態度をとるタイプ。

この中で「大仰型」は、他のタイプに比べて社会適応がしやすい側面がありますが、それでも「不自然さ」「融通の利かなさ」が残りやすい点が特徴です。

■ 他のタイプから大仰型へ――適応のための変化

多くの大仰型ASDの方は、元々は別のタイプであった場合が少なくありません。社会生活において何らかの困難や不適応を経験した結果、自分なりの適応戦略として「大仰型」へと変化していくのです。

・積極奇異型からの変化

もともと行動力があるが、「自分のこだわりを押し付ける」と受け取られやすい積極奇異型の方は、反発を招きやすい側面があります。これを乗り越えるためには、一旦黙る・観察する・相手に合わせて発言するというスキルを学んでいくことが大切です。

・受動型からの変化

受動型の方は、対人トラブルを避けるために自分を抑える傾向がありますが、それが続くと自己喪失や二次障害につながることも。そこで「丁寧に断る」「必要な場面では主張する」といった訓練を経て、大仰型へと移行することがあります。

・孤立型からの変化

自分の世界にこもりがちな孤立型の方は、必要最低限の対人交流を通じて少しずつ社会適応のコツを学び、「場にふさわしい振る舞い」へと切り替えていく中で大仰型のスタイルを形成していきます。

・尊大型からの変化

尊大型は、ASDの特性に加えて自己愛的な傾向が強いとされます。対等な関係の構築が困難なため、他者や自分への影響にしっかり向き合い、自分の言動を見直していく必要があります。これは極めて困難なプロセスではありますが、意識的な変容により大仰型の方向へ進むことも可能です。

■ 大仰型ASDの弱点と限界

大仰型ASDの弱点と限界

大仰型ASDの方は、努力によって多くの部分をカバーできていますが、なお残る根本的な課題も存在します。

・場に合わない振る舞い

カジュアルな場面でも過剰に丁寧な態度を取り、「空気が読めない」と捉えられることがあります。これはASDに共通する「非言語的サインの読み取り困難」に由来するものです。

・とっさの対応が苦手

急な変化や予期せぬ出来事に対して混乱しやすいのも、ASD特有の「こだわり」や「切り替えの苦手さ」から来るものです。意識的に調整は可能でも、完全に克服することは困難な場合もあります。

■ 弱点をどうカバーするか?

1. 自分の努力を認める

大仰型として振る舞えるようになったという事実自体が、すでに大きな努力の賜物です。たとえ周囲に誤解されることがあっても、自分の成長と取り組みは自分自身がしっかりと認めるべきです。

2. スキルの精度を上げ続ける

現在の状態は改善の途中段階です。日々の経験から学び、丁寧な振る舞いをさらに自然な形に近づけていく努力を続けることが大切です。

3. ストレスマネジメントを徹底する

無理を重ねれば、心身への負荷が増し、二次障害のリスクも高まります。適切な休息や気分転換、相談できる環境の確保など、ストレス対策は重要です。

4. 強みを活かす

大仰型であるということは、すでにある程度の対人スキルを身に付けているという証でもあります。残る弱点を補いつつ、自分の強みを意識的に活かしていくことで、よりよい適応が可能になります。

■ おわりに

ASDの特性は、単に「改善」や「克服」だけで語れるものではありません。特に大仰型ASDの方は、さまざまな経験と努力を重ねた末に現在の姿があります。

その努力を正しく理解し、尊重する視点が、社会や周囲にも求められています。そしてご本人にとっても、「自分の取り組みは十分に価値あるものだ」と信じることが、これからの前向きな歩みに繋がるはずです。

社会の中で無理なく、自分らしく生きていくために、特性を理解し、長所を伸ばし、ストレスとうまく付き合いながら歩んでいく――そのための一助となれば幸いです。