「ADHDと躁うつ病は違う病気ですか?」というご質問をいただくことがあります。確かにADHD(注意欠如・多動症)と躁うつ病(双極性障害)は診断基準上は別の病気として分類されます。しかし実際の臨床現場では、この2つに共通する症状や合併例が見られることも少なくありません。
本記事では、ADHDと躁うつ病の違いを丁寧に整理しつつ、似ている点、そして合併例についても分かりやすく解説していきます。

まず、ADHDについて簡単に振り返ってみましょう。
ADHDは発達障害の一種で、生まれつきの脳機能の違いによって、主に以下のような特性が見られます。
こうした特徴は子どもの頃から現れやすく、特に学齢期に目立つことが多いです。近年では、大人になってから診断を受ける「成人ADHD」も知られるようになってきました。
ADHDの方の中には、感情のコントロールが苦手で、気分の変動が激しい方もいらっしゃいます。特にストレスがかかった場面では、怒りや焦りといった感情が一気に噴き出しやすくなることがあります。

一方で、躁うつ病は脳の働きのバランスが崩れることで、気分の高まり(躁状態)と気分の落ち込み(うつ状態)を繰り返す病気です。
発症年齢は10代後半から30代前半に多いとされています。数か月単位で気分が変動する方が多いですが、なかには「ラピッドサイクラー(急速交代型)」と呼ばれる短い周期で躁うつを繰り返すケースや、躁と鬱の症状が混じる「混合状態」もあります。
ADHDと躁うつ病は、まったく違う病気として分類されますが、共通点も少なくありません。
1. 気分の波がある
両者とも気分の変動が見られることがあります。
見分け方の一つとして、「気分の変動の持続期間」があります。
ADHDの気分変動は一日の中で数時間単位で変わることが多いのに対し、躁うつ病では数日~数か月にわたって継続するのが特徴です。
2. 衝動性・多動性がみられる
躁うつ病の「軽躁状態」や「躁状態」では、活動が過剰になり、しゃべりすぎ、動きすぎ、注意が散漫になるなど、ADHDと非常によく似た行動が見られます。
このため、初期にはADHDと誤診されることもありますし、逆にADHDが背景にある方が後年、躁うつ病を発症するケースもあります。
両者を見分けるうえでの重要なポイントは以下の通りです。
ADHDと躁うつ病はまったく別の診断ですが、両方の診断がつく(合併する)ケースも存在します。
たとえば、幼少期からADHD傾向があり、思春期以降になってから気分の波が激しくなり、気分安定薬が効果を示した場合などです。このようなケースでは、ADHDと躁うつ病の両方を併せ持っていると診断されることがあります。
現代の精神医学においては、単独診断にこだわらず、複数の特性や症状が重なって現れる「重ね着」のような状態を意識することが増えています。
さらに補足として、ADHDは他の疾患とも合併しやすいことが知られています。
1. ADHDとうつ病
長年ADHDの症状で苦労してきた方が、大人になってからストレスや失敗体験の積み重ねによって二次的にうつ病を発症するケースがあります。これは「二次障害」と呼ばれ、ADHDの診断後には注意して観察が必要です。
2. ADHDと境界性パーソナリティ障害(BPD)
ADHDと境界性パーソナリティ障害は、衝動性や感情の不安定さなど、行動面で似ている部分があります。
たとえば、衝動的な行動や見捨てられ不安などが目立つ場合、初めはBPDと診断されたが、後から生育歴を詳しく振り返るとADHDが隠れていたというケースもあります。このような認識の広がりから、以前よりBPDと診断される人が減り、代わりにADHDと再診断されるケースが増えているという実情もあります。

ADHDと躁うつ病は、発症時期や根本的な病態が異なる別の病気です。
しかし、実際の症状としては重なる部分も多く、特に衝動性や気分変動、多動性といった点ではよく似ています。
そして何より重要なのは、「これらは時に合併することもある」という視点です。単一の診断にとらわれず、患者さん一人ひとりの背景、生育歴、症状の経過を丁寧に見ていくことが必要になります。
また、ADHD、躁うつ病、境界性パーソナリティ障害は互いに誤診されやすく、症状が複雑に絡み合うこともあるため、診断や治療には専門的な視点と柔軟なアプローチが求められます。