ストレングスモデル

ストレングスモデル

ストレングスモデルとは何か──精神医療における「強み」に焦点をあてた支援のかたち

精神的な支援や治療の場において、「弱点を改善するべきか」「強みに目を向けるべきか」というテーマは、長らく議論の的となってきました。近年注目されている「ストレングスモデル(Strengths Model)」は、その中でも「強み」に焦点を当て、当事者が自分らしく生きていけるように支援していこうとする考え方です。本記事では、ストレングスモデルの基本的な考え方から、従来の医療モデルとの違い、そして精神疾患ごとの具体的な活用方法について丁寧に解説していきます。

強みに注目するか、弱みに対処するか

強みに注目するか、弱みに対処するか

人の支援においては、「強みを活かす方法」と「弱みを補う方法」のどちらを重視するかで、アプローチの方向が大きく変わります。

まず「強みを活かす」という方法は、個人が持つ長所に注目し、それを発揮することで社会への適応や人生の充実を目指す考え方です。この方法の魅力は、自分らしさを大切にできる点、自尊心が育まれやすい点にあります。しかし、弱点があまりに大きい場合や生活に支障をきたす場合には、このアプローチだけでは限界があることも事実です。

一方、「弱みをカバーする」という方法は、困りごとや苦手な部分に焦点を当て、その影響を最小限に抑えることを目指します。たとえば不注意や衝動性などに対しては、具体的な対策を講じることで不適応を減らせる利点があります。ただし、弱点ばかりに目を向けすぎると、当事者が自己否定に陥り、意欲や自尊心を失ってしまうおそれもあるのです。

多くの場合、どちらか一方だけを選ぶのではなく、強みと弱点の両方に目を向けながら、状況に応じてバランスよく支援を行っていくことが大切だと言えるでしょう。

ストレングスモデルとは

ストレングスモデルとは

こうした背景の中で生まれたのが「ストレングスモデル」という考え方です。これは1970年代、アメリカのチャールズ・ラップ教授によって提唱されました。ストレングスモデルでは、症状や障害ではなく、当事者の「強み」や「可能性」に注目し、それを支援の土台としていきます。

とくに近年では、発達障害の支援やリカバリー志向の精神医療の中で、この考え方が広く取り入れられるようになってきました。以前のような「医学モデル」──つまり医師が診断し、病気を治療するという一方向的な構図から、当事者の自発性と主体性を重視した支援へと、価値観が変化しつつあるのです。

医学モデルの限界とストレングスモデルの意義

従来の医学モデルにおいては、治療の焦点は主に「症状の軽減」に置かれていました。医師が病状を診断し、薬や療法を用いてそれを改善する──その過程では、当事者の強みや人生の方向性といった視点が後回しにされることも多くありました。

しかし現実には、どれほど治療をしても完全には消えない症状や障害が残ることがあります。さらに、社会復帰の視点が乏しいと、当事者は「回復しても先が見えない」と感じ、自己肯定感や希望を失ってしまうこともあります。その結果、診断自体を受け入れられず、支援に結びつかないという悪循環に陥ることも少なくありません。

ストレングスモデルは、こうした状況を変えるための新しい道を示しています。治療の目標を「完全な症状の消失」だけに置くのではなく、「今ある強みを活かして、自分らしい人生を歩んでいく」ことに焦点を当てる──それによって、たとえ困難が残っていても、その人の人生には希望や価値があるという見方ができるようになるのです。

ストレングスモデルに関連する考え方

ストレングスモデルに関連する考え方

ストレングスモデルに近い概念として、「レジリエンス」と「リカバリー」が挙げられます。

レジリエンスとは、困難やストレスに直面しても、それを乗り越え、回復していく力を指します。精神疾患を抱えていても、自己信頼をもとに回復を目指すことは可能であり、その過程においても「強み」は大きな支えになります。

リカバリーとは、障害や病気を完全になくすことよりも、「それがあっても自分らしく主体的に生きていく」ことを目指す考え方です。症状のコントロールや機能の改善ももちろん重要ですが、それ以上に、「人生をどう生きるか」という視点が大切にされています。

ストレングスモデルの活用例

ストレングスモデルは、さまざまな精神疾患に応用が可能です。ここでは、統合失調症、うつ病、発達障害という3つの疾患において、具体的な活用の例を見ていきましょう。

1. 統合失調症の場合

統合失調症では、治療をしても再発リスクや認知機能の障害、陰性症状などが残ることがあります。そうした中でストレングスモデルを活用することで、たとえば芸術的な活動やボランティアを通して自分の得意なことを社会に活かすことができます。また、当事者としての発信活動も、強みを生かす一つの方法です。

2. うつ病の場合

うつ病では、症状の改善後も再発の不安やキャリアへの影響、思考のクセなどが残ることがあります。しかし、うつを経験したことを活かして、部下や後輩へのサポートを行ったり、本来の自分の価値観に立ち返って生き方を見直す機会にすることが可能です。また、職場や社会制度への改善提案など、経験者だからこそできる発信もあります。

3. 発達障害の場合

発達障害では、社会性や注意力の課題が0にはなりにくく、ライフスキルや対人関係に困難が残ることがあります。しかし一方で、特定の分野に優れた能力を持つ人も少なくありません。その長所を活かして社会貢献したり、創造的な取り組みに挑戦することは十分可能です。また、自分の特性を理解した上で、自分に合った仕事を選んでいくという実践も効果的です。

おわりに

おわりに

ストレングスモデルは、「人は誰もが強みを持っている」という前提に立ち、その強みを支援や回復の中心に据える考え方です。精神疾患においては、以前は「弱みをどう直すか」が中心でしたが、現在では「強みをどう活かすか」へと価値観が変わりつつあります。

たとえ障害があっても、自分の力で社会とつながり、自分の人生を歩んでいくことは十分可能です。ストレングスモデルは、そうした生き方を支えるための新しい選択肢として、今後さらに広がっていくことでしょう。