精神疾患に向き合う中で、日々の心の健康を維持するための「セルフケア」の重要性が広く知られるようになってきました。しかしいくらセルフケアを実践しても、その前提である“自分の状態の把握”ができていなければ、効果は半減してしまいます。
体調管理においても「熱がある」と分かって初めて解熱剤を飲むように、心の不調に対してもまずは“今の自分がどのような状態か”を見つめることが大切です。このように自分の内面や行動、反応などを日常的に観察する行為を「セルフモニタリング」と呼びます。
例えば歩いていて目の前に水溜まりがあることを認識できれば、それを避けて通ることができます。逆に水溜まりの存在に気付かなければ、濡れてしまうのは避けられません。勉強でも「このままでは試験に合格できない」という現状認識があるからこそ、対策として勉強量を増やすという選択ができるのです。

これはメンタルヘルスにもそのまま当て嵌まります。怒りをコントロールするには自分が「今怒っている」と気付く必要がありますし、考え方の癖を変えるにはまず「自分はこう考えがちだ」と気付くことが第一歩になります。
セルフモニタリングが欠けていると、間違った対処を選んでしまうこともあります。例えば日常的に大量の飲酒や過食をしているにも関わらず、サプリメントや健康食品ばかりに意識が向いていては、根本的な改善には繋がりません。
また怒っていることに自分で気付いていないと、怒りを抑えるどころか逆に周囲に「べき思考」を押し付けてしまい、対人関係のトラブルを招くこともあるでしょう。こうしたことからも、セルフモニタリングはセルフケアの基本であると言えます。
マインドフルネスは、「今ここ」に意識を向け、自分の心身の状態を観察する技法です。思考、感情、体の感覚、行動パターンなどを丁寧に見つめることで、セルフモニタリング力を高めることができます。

習得には多少の時間が掛かりますが、繰り返し練習することで誰でも身に付けることが可能です。「今、自分の中にどんな感情があるか」「どんな考えが浮かんでいるか」など、日常生活の中で意識的に見つめ直すことで、少しずつ精度が高まっていきます。
私たちが何かを感じるとき、その感情はしばしば「出来事 → 考え方 → 感情」という流れの中で生まれています。例えば、「友人に挨拶を無視された」という出来事があったとします。その時「嫌われたのかもしれない」と考えると悲しみや不安を感じ、「たまたま気付かなかったのかも」と考えると気持ちはそこまで揺れ動かないかもしれません。
このように感情の動きがあった時に「その前にどんな考えがあったか?」を丁寧に観察することが、認知のセルフモニタリングの要です。
繰り返し観察をしていくうちに、「自分はネガティブに解釈しやすい」「すぐに最悪のシナリオを想定してしまう」といった思考の癖が見えてきます。こうした癖が日常生活に悪影響を及ぼしている場合、修正を検討することが大切です。

修正といっても、気付いて意識するだけで改善することが多くあります。どうしても難しい場合は「その考えの根拠は?」「逆の根拠はないか?」といった視点を取り入れたり、「他の人ならどう考えるか」を想像したりすることで、バランスの取れた思考に近付けることができます。
行動は自分だけでなく周囲にも影響を及ぼします。例えば怒りに任せて誰かに強い言葉を投げ掛けたとしたら、その相手だけでなく周囲にも不快感や緊張を与えてしまうかもしれません。そして結果的に、その行動が自分に対しても人間関係の悪化という形で返ってくることがあります。
行動のセルフモニタリングとは、自分の言動が自他にどのような影響を及ぼしているかを日々振り返り、良い行動は増やし、望ましくない行動は減らしていくプロセスです。
初めのうちは、1日の終わりなどに自分の行動を丁寧に振り返るところから始めましょう。慣れてくるとその場その場で素早く判断し、より良い選択を即座に行えるようになっていきます。ここまで来ると日常の行動そのものが変わり、より良い人間関係や自己満足感へと繋がっていきます。
最近では「アンガーマネジメント」という言葉が広く知られるようになりました。呼吸法やタイムアウト(その場から一時的に離れる)などの具体的なテクニックも豊富にありますが、これらが機能するためには「自分が怒っている」と気付けることが前提です。
怒っているのにその感情に気付かず、無自覚のまま周囲に当たってしまうケースは少なくありません。そのような時には、どんな技法も効果を発揮しないのです。
強い感情に圧倒されている場合は、まずは呼吸の浅さや体の緊張といった身体感覚に注目してみましょう。怒りそのものに直接向き合うのが難しい場合は、感情に間接的に触れていくような工夫が役立ちます。
慢性的な身体の痛み(慢性疼痛)に悩まされている人の中には、痛みと否定的な考えや感情が強く結び付いてしまっているケースがよくあります。この結び付きがあると痛みそのものが悪化し、生活の質が下がってしまうのです。
まずは「痛みがある」ことを否定せず、その存在を受け入れることから始めます。そしてその痛みに伴う思考や感情、更に日常行動への影響も丁寧に観察していきます。
その上で、「痛み」と「ネガティブな考え」「感情」「行動」などを1つずつ切り離していく作業を行います。痛みそのものは消せなくても、それに引き摺られて生活すべきことができなくなる…という状態は改善が可能なのです。
心の健康を守るためには、まず自分自身を理解することが必要です。セルフモニタリングとはただの“自己観察”ではなく、自分の内面を客観的に見つめ直すことで本当に必要な対策を見極める力を育むためのプロセスです。
特に精神疾患においては状態の悪化を防ぐためにも早期の気付きが大切になります。マインドフルネスや日々のちょっとした振り返りを通して、「自分を知る習慣」をつけていきましょう。それがより確かなセルフケアへと繋がっていくはずです。