現代社会では、慢性的な疲労感や食欲の低下を訴える方が増えています。これらの不調に対して、薬物療法や生活習慣の改善など様々な対策が取られますが、その中でも注目されているのが漢方薬によるアプローチです。今回は、特に疲労感や食欲低下に効果が期待される「十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)」について、詳しくご紹介します。
十全大補湯は、古くから使われている漢方薬の一つで、体力の低下や疲労感、食欲不振といった“気虚(ききょ)”の状態に効果があるとされています。
この漢方は、いわゆる「補気剤(ほきざい)」と呼ばれるグループに属しており、気力や体力を回復させることを目的とした処方です。
漢方薬とは、生薬(しょうやく)と呼ばれる自然由来の素材を複数組み合わせて処方される医薬品です。効果はゆっくりと現れ、作用も比較的穏やかですが、副作用が少ないという特徴があります。
十全大補湯は、疲れや倦怠感、そして食欲の低下などに悩む方に処方されることが多く、さらに頭痛や立ちくらみといった自律神経症状にも効果がある場合があります。

疲労感や食欲不振の治療には、現代医学でもいくつかの薬が用いられます。ここでは、それらと十全大補湯の違いを見ていきましょう。
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
SSRIは抗うつ薬の一種で、うつ病や不安障害などの治療に用いられます。うつ状態に伴う食欲不振や倦怠感の改善を目的とすることもありますが、副作用として逆に食欲低下を引き起こすこともあります。
スルピリド
スルピリドは弱めの抗うつ薬であり、以前は胃薬としても処方されていた薬です。食欲不振とうつ症状の両方に改善効果があるとされています。ただし、女性ではプロラクチンというホルモンの上昇により、生理不順が起きることがあるため注意が必要です。
消化管運動改善薬(例:メトクロプラミド)
主に内科領域で処方される薬で、胃腸の動きを促進して吐き気や食欲不振の改善を図ります。ただし、精神症状に対しての効果は限定的であり、漢方薬のように全身的な不調に対応するというよりは、局所的な効果を期待する薬になります。
このように、西洋薬にも倦怠感や食欲不振に対する治療薬は存在しますが、副作用の問題や適応の限定性もあります。その点、十全大補湯は比較的安全に使えることから、慢性的な症状や他の治療薬が合わなかった場合の選択肢として有用です。
また、疲労感や食欲低下に加えて、自律神経の不調を伴うケースでも、十全大補湯は一定の効果を示すことがあり、体全体を「整える」方向で作用するのが特徴です。

十全大補湯と似た効能を持つ漢方薬として、以下のような処方があります。それぞれの違いを理解することで、症状や体質により適した漢方を選ぶことができます。
こちらも補気剤の一つで、食欲不振や疲労感の改善を目的とします。十全大補湯と異なり、胃もたれが出にくいため、特に胃の不快感がある人には補中益気湯の方が適している場合があります。
六君子湯は、胃もたれや吐き気、消化不良が主な症状の場合に処方されることが多い漢方薬です。特に過敏性腸症候群など、胃腸の症状が強い場合に使われることがあります。
体力の著しい低下がある場合、とくに高齢者に対して用いられることが多い処方です。気力・体力の両面を支える漢方で、場合によっては不安症状の緩和にも効果があるとされます。
比較的安全とされる十全大補湯ですが、まれに副作用が出ることがあります。代表的なものは以下の通りです。
服用にあたっては、自己判断ではなく医師や薬剤師に相談することが大切です。
十全大補湯は、通常1日2〜3回、食前に服用することが推奨されます。ただし、胃の状態によっては食後に服用することも可能です。
効果が出るまでには個人差があり、一般的には1か月ほど継続することが望ましいとされています。もし1か月経過しても効果がみられない場合や、副作用が気になる場合には、医師と相談のうえ他の漢方薬に切り替えることを検討します。
この漢方薬が適していると考えられる状況は以下の通りです:
十全大補湯は、疲労感や食欲低下といった症状に対し、穏やかながらも体全体に働きかける漢方薬です。抗うつ薬や消化管の薬と比べると副作用が少なく、安全性が重視されるケースで選ばれることが多いです。
特に「体がだるく、食欲もわかず、でも検査では異常がない」といった症状に悩む方にとって、一つの選択肢として有効です。焦らず、1か月ほどかけてじっくりと体の変化を見ていくことが大切です。
漢方治療は体質や症状の個人差によって効果が異なりますので、服用の際は必ず専門の医師や薬剤師にご相談ください。