日常生活の中で「疲れが取れない」「食欲がわかない」といった体調不良を感じることは多くの人に共通する悩みです。こうした症状に対して、現代医学の薬と並んで選ばれることがあるのが漢方薬です。その中でも「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」は、疲労感や食欲低下に対する効果が期待される代表的な処方の一つです。
今回はこの補中益気湯について、その特徴や使い方、注意点、さらには似た作用をもつ漢方薬との違いについて、丁寧に解説していきたいと思います。
補中益気湯は、「気力や体力を補う」ことを目的とする漢方薬です。漢方の用語で「補気剤(ほきざい)」と呼ばれるグループに分類され、主に体のエネルギーである「気」が不足していると考えられる状態に使われます。
具体的な適応症状としては、以下のようなものがあります:
西洋医学的に見ると、自律神経の不調や軽度のうつ状態に近い症状に対して、穏やかに作用し、体調を整えることが目的の薬になります。

漢方薬とは、複数の生薬(植物や鉱物などの自然由来成分)を組み合わせて作られる薬で、体全体のバランスを整えることを重視します。効果の出方は緩やかで、副作用が比較的少ないという特徴があります。
一方、現代医学の薬は、特定の症状や部位に対して強力に働くことが多く、即効性が期待できる反面、副作用が出る可能性も高くなる傾向があります。
補中益気湯は、薬の効き目をすぐに求めるというよりは、じっくりと体質を改善したい方や、安全性を重視したい方に向いています。
補中益気湯以外にも、食欲低下や倦怠感への対策として処方される薬はさまざまあります。ここでは代表的な薬と比較しながら、それぞれの特徴を見ていきましょう。
(1)抗うつ薬(SSRI)
SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、うつや不安に対して処方される代表的な薬です。うつ状態に伴う食欲低下や倦怠感の改善を図ることができますが、人によっては副作用で食欲がさらに落ちる場合もあるため、慎重な使い方が求められます。
(2)スルピリド
スルピリドは、もともと胃薬として使われていたこともある軽い抗うつ薬で、食欲改善と気分改善の両方が期待される薬です。ただし、プロラクチンというホルモンの分泌を促すため、女性では月経不順などの副作用に注意が必要です。
(3)消化管運動改善薬(例:ドンペリドン)
吐き気止めや胃の動きをよくする薬で、胃腸の不調により食欲が落ちている場合に用いられます。ただし、これらはあくまで胃腸の機能に特化した薬であり、精神的な倦怠感にはあまり効果がありません。
(4)補中益気湯
補中益気湯は、胃腸の働きだけでなく、全身的な「だるさ」や「気力の低下」に対応する処方です。精神的な不調に由来する食欲低下や倦怠感にも穏やかに作用し、副作用も比較的少ないことから、安全性重視の選択肢として注目されています。
補中益気湯と類似の効果を持つ漢方薬もいくつか存在します。症状や体質によって、以下のような処方が検討されることもあります。
● 十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
こちらも補気剤に分類され、疲労感・食欲低下・冷え性・貧血傾向などに使われます。やや体力が落ちている方、特に虚弱体質や冷えを伴う場合に向いています。ただし、胃もたれが出やすい方には注意が必要です。
● 人参養栄湯(にんじんようえいとう)
高齢者や長期間の体調不良で体力が落ちている方に使われることが多い漢方薬です。心身の疲れ、不安感、食欲不振など幅広く対応します。
● 六君子湯(りっくんしとう)
こちらは特に胃もたれ・吐き気・過敏性腸症候群など胃腸症状が強い場合に用いられます。食欲不振に加え、胃が重い、吐き気がする、といった方に向いています。

漢方薬は副作用が少ないと言われますが、全く副作用がないわけではありません。補中益気湯で注意したい副作用は以下の通りです:
また、体質に合わないと感じた場合は、無理に続けず医師や薬剤師に相談することが大切です。
補中益気湯は、原則として1日2〜3回、食前に服用します。ただし食後に服用しても大きな問題はないとされます。粉薬が主流ですが、錠剤タイプも処方可能です。
効果はすぐには出ないことが多く、少なくとも1か月は継続して様子を見る必要があります。それでも効果が乏しい場合や、副作用が気になる場合は他の漢方薬や治療薬への切り替えを検討することになります。
補中益気湯は、以下のような方に特に適しています。
現代薬との比較で即効性は劣るものの、副作用が少なく、安全性が高いことが魅力です。生活の質(QOL)をゆっくりと整えたいと考えている方にとって、補中益気湯は有効な選択肢の一つとなるでしょう。