今回は「否認」という心の働きについて詳しく見ていきたいと思います。
私たちが日々直面するストレスや困難な現実に対して、心はさまざまな反応を見せます。その中でも「否認」は、防衛機制のひとつとして多くの人に見られる心理的な反応です。一見、問題を無視しているように見えるかもしれませんが、その背景には強いストレスや危機に直面したときに心を守ろうとする無意識の働きがあります。
例として、Aさんという人物のケースを見てみましょう。
Aさんは職場のストレスから、次第にアルコールの量が増えていきました。やがて周囲の人々から「依存症ではないか」と心配の声がかかるようになりました。しかしAさんは、「自分は依存なんかじゃない」「普通に飲んでいるだけだ」と繰り返し否認しました。結果的に、アルコールの摂取量はさらに増加し、生活が破綻。倒れて救急搬送されたときには、肝臓などの臓器が深刻なダメージを受けていた、という深刻な状況に至りました。
このように、「否認」は問題を無視したり、現実から目を背けたりすることで、結果的に状況の悪化を招いてしまうことがあります。

「否認」とは、心理学においては「防衛機制(ディフェンス・メカニズム)」の一種とされています。
防衛機制とは、ジークムント・フロイトによって提唱された概念で、私たちが不安やストレスなどの心理的負担に直面したとき、それを軽減しようとする心の無意識的な働きです。防衛機制にはさまざまな種類があり、たとえば以下のようなものがあります。
そして今回のテーマである否認は、「受け入れがたい現実を、無意識的に『存在しない』ものとして扱う」ことで、心の安定を保とうとする働きです。

否認が見られる典型的な場面には、以下のようなものがあります。
このように、否認は多くの人が無意識に経験するものであり、特別な人だけが陥る反応ではありません。

否認は基本的には無意識の働きであるとされています。本人も自分が否認していることに気づいていないことが多く、だからこそ「否認」という形で心が自らを守っているのです。
しかしながら、実際には「薄々は気づいているが、あえて見ないふりをする」といった半ば意識的な否認もあります。そのため、外から見て否認している人が「本当に無意識なのか」「意図的なのか」を判断するのは非常に難しいのが現実です。
否認は一見ネガティブに思えるかもしれませんが、短期的には次のような心理的メリットがあります。
一方で、否認が長期間にわたって続くと、以下のような深刻なデメリットがあります。
否認から抜け出すためには、時間と準備が必要です。以下のような段階的な取り組みが効果的です。

「否認」とは、防衛機制のひとつであり、困難な現実を受け入れられないときに、無意識に目を背ける心の働きです。短期的には心を守る自己防衛の役割を果たしますが、長期化すると問題の悪化や信頼の損失につながることがあります。
否認してしまうことは、誰にでも起こりうる自然な反応です。だからこそ、自分を責めずに、少しずつ現実と向き合う準備を整えることが大切です。そして、時間をかけてでも、ゆっくりと「直面する力」を育んでいくこと。それが、否認を乗り越え、問題を乗り越える第一歩となるのです。