今回は、ストレスと向き合う上で重要な心の働きである「抑圧」と「抑制」について解説していきます。これらは精神分析学における「防衛機制」と呼ばれるものの一つで、私たちが日々のストレスや不快な感情から自分を守るために無意識・意識的に使っている心理的な技術です。

まず、ある事例を見てみましょう。
Aさんは、毎日職場で理不尽な言動を繰り返す上司に悩まされていました。当初は、自分の怒りや不快感を「出してはいけない」と意識的に抑える、つまり「抑制」を行っていました。しかし、それが続くうちに限界がきてしまい、最終的にはストレスの元である記憶や感情全体を無意識下に押し込めてしまいました。これが「抑圧」です。
一時的には安定を取り戻したAさんでしたが、しばらくすると突然、身体が重く感じ、朝起きても会社に行けない状態に陥ってしまいました。心の中で処理しきれなかった感情が、ついに身体の不調として現れてしまったのです。
「抑圧」と「抑制」はどちらもストレスに対する対処法ですが、大きな違いがあります。
つまり、「無意識」か「意識的」かが両者の大きな分かれ目となります。
抑圧は自分でも気づかないまま進行するため、限界に達しても察知しづらく、突然の心身の不調につながることがあります。一方、抑制は意識的な努力で行うため、自分の限界を比較的察知しやすく、他の対処法とも組み合わせやすいのが特徴です。
抑圧や抑制は、心理学的には「防衛機制」と呼ばれ、心の安定を保つために働く自然なプロセスです。これは精神分析の父であるフロイトによって提唱された概念であり、現代の臨床心理でも基本的な考え方とされています。
防衛機制には他にも以下のようなものがあります:
こうした防衛機制は、自分の感情やストレスと上手に付き合うための重要な道具となっています。

抑圧や抑制には、社会生活を円滑に送るための重要なメリットがあります。

一方で、これらを過度に使いすぎると、心身に悪影響を及ぼすこともあります。
防衛機制はあくまで「応急処置」のようなものです。本質的な対処には、以下のような姿勢が求められます。

抑圧と抑制は、いずれも私たちがストレスに対処するための防衛機制です。特に抑制は、社会的に適応していくうえで重要な技術でもあります。しかし、どちらも「溜め込む」方法であるため、行き過ぎると心身の不調につながるリスクがあります。
大切なのは、自分の感情に気づき、それを適切に管理すること。そして、抑圧や抑制に頼りすぎず、知性化・合理化・昇華などの他の方法と組み合わせながら、健全なストレス対処を目指していくことが、心の健康を保つ鍵となるでしょう。