今回いただいたご質問は「発達障害は治りますか?」というものです。
この問いに対して、シンプルな答えを申し上げるならば、「医学的には治りません。しかし、生活は改善も悪化もします」ということになります。この記事では、そもそも発達障害とは何か、「治る病気」と「治らない障害」の違い、発達障害の改善と悪化の仕組み、そして生活をより良くするための具体的な工夫について、わかりやすく解説していきます。

発達障害とは、生まれながらに脳の一部の機能に偏りや遅れがあり、そのために生活や対人関係、学習、仕事などに困難が生じる状態を指します。代表的なものとしては、以下の2つが挙げられます。
どちらも生まれつきの脳の特性であり、年齢によって消えるものではないため、「完治する」というよりは、「特性とうまく付き合っていく」という考え方が求められます。

ここで重要な視点として、「治る病気」と「治らない障害」の違いについて触れておきましょう。
◆ 治る「病気」とは?
病気とは、ある程度医学的な原因が特定されており、その原因に対する治療によって体の状態が正常に戻る可能性のあるものを指します。例としては以下のようなものがあります:
こうした病気は、治療によって元の健康な状態に戻ることが目標となります。
◆ 治らない「障害」とは?
一方、障害とは、身体や精神の機能に不可逆的な制限が生じた状態を指します。代表的なものには以下があります:
発達障害もこの「障害」のカテゴリーに含まれます。つまり、治療によって元に戻ることは医学的には期待できないという意味で、「治らない障害」とされているのです。
では、「治らない」発達障害に対して、私たちは無力なのかというと、決してそんなことはありません。
重要なのは、「症状(特性)は変わらなくても、生活の質は改善できる」という点です。

◆ 改善のイメージ:リハビリのような努力
発達障害の生活改善は、体に麻痺がある人がリハビリを続けて少しずつ動作を取り戻していくのと似ています。たとえば、ASDの方がこだわりや対人面の困難に対して、環境調整や認知の工夫を通して少しずつ適応していくようなケースです。
根本的な特性は変わらなくても、他の力でカバーしていくことで生活は大きく改善できます。
◆ 悪化のリスク:回避と二次障害
一方で、発達障害の特性に対して適切な対処がされない場合、状態が悪化するリスクもあります。
たとえば、人間関係がうまくいかない経験が重なり、対人関係を避けるようになると、さらに社会適応が難しくなります。加えて、うつ病や不安障害といった二次障害を併発することも少なくありません。
こうした状態は「重ね着症候群」と呼ばれ、発達障害に加えて他の精神的問題が上乗せされた状態です。二次障害を防ぐことは、発達障害と付き合ううえで極めて重要です。
では、発達障害のある方が生活を改善していくにはどうすればいいのでしょうか。ここでは3つのアプローチをご紹介します。
① 子どものうちの療育支援
小児期には、本人の意思だけで工夫するのは難しいため、周囲の支援が非常に重要です。療育とは、特性に合わせた行動訓練やスキル獲得の支援であり、本人が不適応を繰り返さないようにすることで、将来的な自己肯定感や社会適応力に大きな影響を与えます。
② 大人になってからの就労移行支援
成人になっても支援がないわけではありません。たとえば「就労移行支援」という制度があり、特性に合わせて働く練習をする場が提供されています。ここでは、働き方を学びながら、自己理解や対人スキルの向上も目指します。
ただし、子どもの頃の療育とは違い、大人の場合は自ら学び、工夫する姿勢がより重要になります。
③ 「利他の自分」を信じて行動する
成人の発達障害の方からよく聞かれるのが、「周囲に振り回されて、何を信じて行動していいかわからない」という声です。他人のアドバイスがいつも正しいとは限りません。
大切なのは、自分が「人のためになる」と信じられる行動を、自分の軸で選び、続けていくことです。それが周囲への貢献につながり、結果的に信頼や評価が得られることで、自分にも返ってきます。この「利他の行動の循環」が、安定した生活の鍵となるのです。
今回のテーマ「発達障害は治りますか?」に対して、まとめとして以下のように整理できます。
発達障害は「治る・治らない」の二択ではなく、「どう付き合い、どう育てていくか」という生涯をかけたテーマです。治ることを期待するよりも、変わらない特性とどう付き合い、より良く生きるかという視点を大切にしていくことが、最も現実的で、希望のあるアプローチではないでしょうか。