前頭側頭型認知症

前頭側頭型認知症

 前頭側頭型認知症とは?行動や性格の変化が現れる認知症の特徴と対応法

【はじめに】

認知症と聞くと、多くの人が「物忘れ」を思い浮かべるかもしれません。しかし、認知症の中には記憶障害が目立たず、性格や行動の変化が顕著に現れるタイプも存在します。その一つが「前頭側頭型認知症」です。本記事では、この認知症の症状や原因、診断基準、対応法について詳しく解説します。

【1. 前頭側頭型認知症とは?】

前頭側頭型認知症は、脳の前頭葉および側頭葉が障害されることによって引き起こされる認知症の一種です。この疾患では、記憶障害は初期にはあまり見られないものの、性格や行動、言語機能に大きな変化が現れます。

1. 前頭側頭型認知症とは?

主な原因は「タウタンパク」などの異常タンパク質が脳内に蓄積し、神経細胞を障害・萎縮させることとされています。これにより前頭葉や側頭葉が担う実行機能や社会性、言語能力が損なわれ、生活に著しい影響を及ぼすようになります。

日本における患者数は約12,000人とされており、認知症全体の中では稀なタイプです。発症の平均年齢は55歳前後で、40代など比較的若い年齢での発症も見られ、「若年性認知症」の代表疾患でもあります。

【2. 前頭側頭型認知症の主な症状】

前頭側頭型認知症の症状は、大きく分けて以下の4つが特徴的です。

  1. 脱抑制(衝動的な行動) 理性による抑制が効かなくなり、軽犯罪(万引きなど)やセクハラ的な言動、悪ふざけ、暴力的な行動など、社会的マナーを逸脱した行動が見られるようになります。
  2. アパシー(無気力) 活動意欲が著しく低下し、何事にも無関心になる傾向があります。他者への共感や思いやりも乏しくなり、引きこもり状態になることもあります。
  3. 常同的・固定的行動 行動がルーチン化され、日々の活動が単調になります。会話の内容や食事もワンパターンになり、変化への対応が難しくなります。また、口唇傾向(何でも口に入れる行動)も見られます。
  4. 言語障害 発語が乏しくなり、物の名前が出てこなかったり、同じ言葉を繰り返す(保続)などの症状が現れます。進行すると会話能力が大きく損なわれます。

【3. 診断基準と鑑別】

診断には、DSM-5の基準が用いられることが多く、認知症であることを前提に、次の条件が満たされている必要があります。

  • 徐々に進行する認知機能の低下がある
  • 行動障害型または言語障害型のいずれかを呈する
  • 記憶や知覚運動機能は比較的保たれている
  • 他の疾患では説明できない

特に行動障害型では、「脱抑制」「アパシー」「共感の欠如」「常同的行動」「食行動の変化」などのうち、3つ以上の症状が確認される必要があります。

他の認知症(アルツハイマー型など)や神経難病、精神疾患との鑑別が重要であり、症状の経過観察、心理検査、画像診断(MRI、CTなど)を組み合わせて診断を確定します。

【4. 治療とケア】

前頭側頭型認知症に対して、根本的な治療薬は存在しません。しかし、適切なケアとサポートによって、本人と家族の生活の質を維持・向上させることが可能です。

4. 治療とケア

薬物療法

抗認知症薬(ドネペジルなど)は効果が乏しく、逆効果となる場合もあるため基本的には使用されません。一方、以下の薬が補助的に用いられることがあります。

  • 抗うつ薬(SSRIなど):アパシーや固執した思考に対して有効なことがあります。
  • 抑肝散:イライラや興奮を和らげる効果があり、副作用が少ないとされています。
  • 抗精神病薬:暴力的な行動や興奮が著しい場合に慎重に用いられます。

非薬物的介入と生活支援

  • 生活のルーチン化:デイサービスなどを活用し、予測可能な日常を構築することで、ストレスを軽減し情緒の安定を図ります。
  • コミュニケーションの工夫:短い言葉、視覚的なサポート(絵や図)を用いることが効果的です。
  • 介護者支援:家族の負担を軽減するための外部資源の活用が不可欠です。

【5. 制度の活用】

前頭側頭型認知症は、厚労省によって「特定疾患」に指定されており、診断が確定すれば「難病指定医療費助成」や「若年性認知症」としての介護保険利用が可能になります。

5. 制度の活用
  • 難病医療費助成制度:厳密な診断が求められますが、医療費の負担軽減に繋がります。
  • 介護保険制度:40歳以上64歳までの人でも、特定疾病としてサービス利用が認められます。
  • デイサービスやショートステイ:生活のルーチン化や介護者の負担軽減に大きな役割を果たします。

【まとめ】

前頭側頭型認知症は、記憶障害が目立たないために見過ごされやすく、衝動的な言動や社会的マナー違反などでトラブルを起こしやすい疾患です。

  • 「脱抑制」「アパシー」「常同的行動」「言語障害」などの特徴的症状に注意することが重要です。
  • 早期診断と、薬物・非薬物的介入、制度の活用により、生活の安定を図ることができます。
  • 家族や介護者の理解と支援が不可欠であり、専門機関への早期相談が大切です。

この病気についての正しい理解と柔軟な対応が、本人と周囲の生活を守る大きな鍵となります。