急性ストレス障害

急性ストレス障害

急性ストレス障害とは? ― 命に関わるストレスへのこころの反応とその対処法

今回は、急性ストレス障害(Acute Stress Disorder: ASD)について、詳しく見ていきたいと思います。これは、非常に強いストレス、特に命の危険に直面するような出来事の後に現れる、急性のこころと身体の反応です。発症のメカニズム、症状、経過、治療法などを順を追ってご紹介します。

急性ストレス障害とは

急性ストレス障害とは

急性ストレス障害とは、命の危険や重大な外傷的出来事に直面した後に起こる、脳の「過覚醒(過剰に神経が高ぶった状態)」を背景とした精神的な不調です。

この状態は、多くの場合、時間の経過とともに自然に軽快していきますが、放置してしまうと慢性化するリスクもあります。特に長期化した場合、心的外傷後ストレス障害(PTSD)やうつ病などの診断につながることもあるため、早期の理解と対処が大切です。

急性ストレス障害とストレス反応の違い

急性ストレス障害とストレス反応の違い

ストレスに対する反応は多様であり、すべてが急性ストレス障害に該当するわけではありません。急性ストレス障害と診断されるためには、以下のような明確な条件が必要です。

  • 危機的な出来事(命の危険、重傷、性的暴力など)への曝露があること
  • 脳の過覚醒に伴う多彩な症状が9つ以上出現していること

これらの条件を満たしていない場合は、適応障害など、別のストレス関連障害とされることもあります。

DSM-5における診断基準

精神医学の診断基準であるDSM-5では、急性ストレス障害を以下の5つの項目で定義しています。

A. 外傷的出来事への曝露

命の危険、重傷、性的暴力といった極度にストレスフルな出来事に、次のいずれかの形で曝露している必要があります。

  1. 直接体験する
  2. 他者が体験する場面を目撃する
  3. 親族や親しい人が体験したことを知る(暴力的・偶発的なものに限る)
  4. 業務上、繰り返し間接的に曝露する(例:警察、消防、救急など)

テレビやネットなどの間接的な情報は、通常この定義には含まれません。

B. 過覚醒に伴う多彩な症状(9つ以上)

以下の5つの領域にわたる14の症状のうち、9つ以上の症状が出現していることが必要です。

侵入症状

  • 出来事の記憶が繰り返し思い出される
  • 悪夢を繰り返し見る
  • フラッシュバックのような体験
  • 似た場面で苦痛が再燃する

陰性気分

  • 幸福感や満足感などが失われ、感じられなくなる

解離症状

  • 離人感(自分が自分でないような感覚)
  • 解離性健忘(出来事に関する記憶が抜け落ちる)

回避症状

  • 苦痛な記憶や感情を避けようとする
  • それらに結びつく場所・人・物も避ける

覚醒症状

  • 不眠・浅い眠り
  • 怒りっぽさ・イライラ
  • 過剰な警戒心
  • 集中困難
  • 驚きやすくなる(過剰な驚愕反応)

C. 持続期間

これらの症状が3日以上1か月以内続いていること

D. 社会的・職業的機能の障害

日常生活や仕事、人間関係に明らかな支障が出ていること

E. 他の病気では説明がつかないこと

他の精神疾患や身体疾患、薬物の影響などによって説明できない場合に限る

経過とリスク:自然軽快と慢性化の可能性

多くの方は、ストレスから離れ、休養を取ることで徐々に改善していきます。しかし、以下のようなケースではリスクが高まり、慢性化につながる可能性があります。

急性期の混乱

  • 強い不眠や不安による精神的混乱
  • 衝動性が高まり、自傷や他害のリスクが上がることも

慢性化のリスク

  1. 強いストレスが続いている
  2. 十分な休養がとれない
  3. 不眠・不安が慢性化している

このような場合、以下のような他の診断へと進むことがあります。

  • PTSD(心的外傷後ストレス障害):1か月以上症状が続く場合
  • うつ病:抑うつ気分や意欲の低下が強い場合
  • 適応障害:上記の基準を満たさないが、不調が長引く場合

急性ストレス障害の治療と対処法

急性ストレス障害の治療と対処法

治療の基本は、自然治癒を促すことです。無理に何かをするよりも、まずは安全でストレスの少ない環境で休むことが最も大切です。

1. 自然治癒を促し、慢性化を防ぐ

  • 安全の確保:まず危険から離れること
  • 十分な休養:心と体を落ち着かせる
  • 話すことによる整理:信頼できる人に話すことも回復の助けに
  • セルフケアの実践:音楽やアロマ、軽い運動などのリラックス法を取り入れる

2. 必要時の介入

以下のようなときは、専門的な介入が必要です。

  • 強い不眠や不安が続いて休めない
  • ストレスが継続している環境にある
  • 自傷・他害のリスクがあると感じる

このような場合には、以下の方法で対応します。

  • 環境調整:必要ならば休職や職場の配慮
  • 薬物療法:睡眠薬や抗不安薬の使用
  • 精神科受診:安全確保が難しい場合や混乱が著しい場合は受診を検討し、必要に応じて入院も視野に

慢性化した場合の対応

慢性化して別の診断がついた場合には、それぞれに合った治療が必要です。

  • PTSD:専門施設での治療が必要なことが多い
  • うつ病:抗うつ薬・精神療法・休養の3本柱
  • 適応障害:ストレスの種類に応じた環境調整やストレスマネジメント

まとめ

まとめ

急性ストレス障害は、命の危機に直面したような出来事の後に起こる、心と体の正常な防御反応でもあります。ですが、時には生活に支障を来たし、慢性化するリスクもあるため、早めに気づき、適切に対処することが大切です。

治療の基本は、「休むこと」。心身をいたわりながら、無理なく安全な環境で過ごすことが、回復への第一歩となります。