今回は「心身症」について詳しく解説していきたいと思います。私たちは日々さまざまなストレスにさらされて生活していますが、そのストレスが身体の不調として現れることがあります。こうした状態を医学的に理解し、適切に対応するためには、「心身症」という概念を知っておくことが非常に重要です。
心身症という言葉は日常でも耳にすることがありますが、実際には日本心身医学会によって以下のように定義されています。
「発症や経過に心理社会的な因子が密接に関与し、かつ身体の器質的もしくは機能的障害が認められる病態」
つまり、精神的・社会的ストレスが身体の不調に強く影響を与えており、かつ医学的な検査や診察によって何らかの身体的な異常が確認できる状態を指します。
ここで重要なのは、「精神障害に伴う身体症状」は厳密には心身症に含まれないという点です。たとえば、うつ病や不安障害などの精神疾患に付随する身体の不調(食欲低下、倦怠感など)は、心身症とは区別されます。

心身症はあくまで「身体疾患」があることが前提となります。ストレスにより発症・悪化する身体疾患には、以下のようなものが知られています。
これらはいずれも、ストレスとの関連が深く、精神的な負荷が増すと症状が悪化するという特徴を持っています。
心身症とよく混同されるものとして、「心気症」「身体表現性障害」「自律神経失調症」などがあります。それぞれの違いを簡単にまとめてみましょう。
① 心気症(病気不安症)
これは、身体的な病気が実際には存在しないにもかかわらず、強い不安や恐怖を抱く状態です。検査で異常が見つからないのに、「自分は大病を患っているのではないか」と信じ込んでしまうのが特徴です。背景には、うつ病や不安障害、適応障害などが隠れていることが多くあります。
② 身体表現性障害
こちらも身体症状を訴える点では心身症と似ていますが、明確な身体疾患が見つからない点が異なります。強い身体的不快感や苦痛を訴えつつも、医学的検査では異常が認められない状態です。
③ 自律神経失調症
自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスが乱れることによって起こる多彩な身体症状を指します。原因としてストレスや精神的要因が強く関与する点は心身症と共通していますが、こちらも明確な身体疾患がないケースが多いため、厳密には心身症とは異なります。
このように、心身症は「ストレスに起因しており、かつ医学的に確認可能な身体疾患がある」という点で、他の心因性の症状とは一線を画しています。

ただし、現実には「身体疾患があるともないとも言い難い」グレーゾーンのケースも多く存在します。
過敏性腸症候群(IBS)
IBSは、ストレスが強く関与するお腹の不調ですが、腸に器質的な異常は認められません。そのため、「心身症」と捉えるか「身体表現性障害」あるいは「自律神経失調症」と捉えるかで意見が分かれることもあります。
慢性疼痛(慢性の痛み)
痛みが長期間続く状態も、ストレスの影響を強く受けます。器質的な原因が確認できれば心身症とされますが、原因が不明な場合には身体表現性障害や自律神経失調症として扱われることがあります。
ストレスによる動悸
ストレスや不安による動悸は、不整脈などの医学的異常が認められれば心身症と診断されることがあります。一方で、精神疾患の一症状として捉えられることもあり、判断が分かれるところです。
心身症はあくまで臨床的な診断であり、次の3つの視点から総合的に判断されます。
たとえば、逆流性食道炎の診断を受け、胃薬を服用しても改善せず、ストレスが強いときに症状が悪化しているようなケースでは、「心身症による逆流性食道炎」と診断される可能性が高まります。
心身症の治療方針
心身症の治療の基本は、「身体疾患の治療」と「メンタル面へのアプローチ」を併用することです。
身体疾患への治療
例えば逆流性食道炎であれば、胃酸を抑える薬(プロトンポンプ阻害薬など)を用いるのが一般的です。ただし、心身症の場合はストレスが強く関与しているため、薬物治療の効果が限定的になることもあります。

ここでは、うつ病や適応障害などの精神疾患への治療と重なる部分が多くなります。
1. 薬物療法
抗うつ薬や抗不安薬、必要に応じて漢方薬などが用いられます。精神疾患の併存が疑われる場合には、専門的な精神科的治療が重要です。ストレス反応が主な原因である場合には、薬はあくまで補助的に使われることが多いです。
2. 環境調整
外的なストレス(職場、人間関係、家庭環境など)が大きい場合には、環境へのアプローチも有効です。場合によっては休職や職場変更、家族との関係改善などが必要になることもあります。
3. ストレスマネジメント
ストレスを感じやすい性格傾向や、思考の癖を振り返り、改善していくことも重要です。ストレス発散法を見直したり、認知行動療法などの心理療法を取り入れることが効果的です。

心身症とは、「ストレスが原因となり、医学的に確認できる身体疾患が発症・悪化する状態」を指します。逆流性食道炎や蕁麻疹、アトピー性皮膚炎などがその代表例です。
心気症や身体表現性障害、自律神経失調症との鑑別が必要ですが、実際には境界が曖昧で重なり合うケースも多く見られます。
治療の基本は、身体疾患に対する適切な医療的アプローチと並行して、ストレスへのメンタルケアを行うことです。薬物療法、環境調整、ストレスマネジメントを組み合わせながら、症状の改善と再発予防を目指すことが大切です。
心身が複雑に絡み合う現代社会では、心身症という考え方は私たちの健康理解に欠かせない概念と言えるでしょう。