双極性障害(躁うつ病)は、躁状態・軽躁状態とうつ状態を周期的に繰り返す気分障害です。波のように揺れ動く気分に合わせて、行動パターンや生活習慣も大きく変化します。本稿では「双極性障害の人が しなくなること 五選」と題し、臨床でよく見られる典型的な変化を丁寧に解説します。ご自身や周囲の方の行動を理解し、適切な対応につなげる一助となれば幸いです。

軽躁状態や躁状態ではアイデアが次々とあふれ、頭の中が高速回転する「観念奔逸」がよく見られます。すると、「やろう」と思った瞬間に即座に行動へ移してしまい、冷静に吟味する“待ち時間”を失いがちです。
こうした行動は当人が気づかぬまま周囲の反感や経済的損失を招き、後にうつ状態へ転じた際「取り返しのつかないことをした」と深い後悔を生むことがあります。また、内面は落ち込んでいるのに衝動性だけが強い「混合状態」では、他者への八つ当たりや自傷行為に直結することもあり、特に注意が必要です。

躁・軽躁期の約 7〜9 割は睡眠欲求が低下し、「3 時間眠れば十分」「徹夜でも平気」と感じます。同時にエネルギー過剰で活動量が増えるため、眠気のサインを受け取れず、寝つき・寝戻りが極端に悪化します。一方、うつ期も約 8 割が不眠を経験しますから、結局のところ全サイクルを通じて睡眠リズムが乱れやすいのです。
睡眠が不足すると脳と身体の回復が阻害され、躁状態はさらに加速し、うつ状態は一層抜けにくくなります。医師が勧める就寝時間の固定や睡眠薬による調整を軽視しないことが、波を穏やかに保つ鍵となります。

双極性障害のうつ期では、不眠とは対照的に「布団から出られない」「昼間も眠くて仕方がない」といった 過眠 が非常に多く報告されます。うつ病患者と比べると 2〜3 倍起床困難が起こりやすく、
といった形で生活リズムが崩壊しやすいのが特徴です。10 代前半の場合、最初は「過眠症」「起立性調節障害」などの診断で経過を見るうち、後から躁的エピソードが表れ双極性障害へ診断が変わるケースもしばしばあります。若年で過眠とうつ症状が併存するときには、将来的な双極性障害の可能性を念頭に早期受診を勧めましょう。

躁状態では自己評価が過剰に高まり「自分が一番正しい」という思考に偏るため、他人の助言を価値の低いものとみなして独断専行しがちです。一方、うつ状態では自己評価が極度に下がり「どうせ相談しても迷惑だ」と感じてしまうため、人に頼ることを避けます。
結果的に「躁でもうつでも相談しない」というパターンが固定化し、回復期であっても「今さら言い出せない」と孤立を深めやすくなります。専門家との早期の信頼関係構築や、家族・友人に“あらかじめ”相談窓口を伝えておくことが、悪循環を断つ重要なステップです。

長年にわたり躁と鬱を往復すると、「どうせまた落ち込む/どうせまた舞い上がる」といった “波前提”の思考 が染みつきます。うつ期は「改善が見えない」焦燥でいっぱいになり、躁期は「鬱が来る前に取り返さなければ」と短期決戦に走ります。
この結果、エネルギーを短期間で使い果たし再び深いうつに落ち込む……という悪循環が強化されます。長期的視野を持つためには、病気の特性を学び、薬物療法を含めた継続治療と、客観的な助言者の存在が不可欠です。治療者や支援者とともに 1 週間先・1 か月先・1 年先と段階的に目標を描き直す習慣が、波に翻弄されにくい未来をつくります。
双極性障害がもたらす「待てない」「寝ない・起きない」「相談しない」「未来を描けない」といった行動変化は、単なる性格の問題ではなく、病気の症状として理解すべきサインです。本人が自覚しにくい点も多いため、家族や友人、職場の仲間が変化に気づいたら 責めるのではなく“早めの受診・相談”を促す ことが重要です。
治療と支援によって波を小さく保ち、生活リズムと人間関係を整えていけば、双極性障害と共にあっても豊かな人生設計は十分に可能です。本稿が理解とサポートの一助となれば幸いです。