「アダルトチルドレン(AC)」は、正式には「アダルトチルドレン・オブ・アルコホーリクス」の略称で、直訳すると「アルコール依存症の家庭に育った人」という意味です。アメリカでは1970年代にアルコール依存症の家庭環境について研究が進み、依存症の家庭で育った子どもたちが成人後も情緒的に苦しみを抱え、自己肯定感が低く生き辛さを感じていることが明らかになりました。
アルコール依存症のみならず、薬物依存、ギャンブル、ワーカホリック、そして家庭内暴力など、いわゆる「機能不全家族」で育った場合も同様の影響があるとされています。アダルトチルドレンの概念が日本に伝わったのは1989年のことで、特に当時の20代から40代に広く受け入れられました。機能不全家族の影響で感じる生き辛さが「自分のせいではない」との考えが、苦しむ人々に新しい視点と希望を与えたのです。
特に昭和の高度成長期に育った人々は、厳しい仕事中毒の父、子供の学歴や成功を強く意識する母のもとで、感情を抑え、親の期待に応えることが重要とされる環境に育つことが多かったため、多くの日本人がアダルトチルドレンの概念に共感しました。しかしながら、この考えが普及するにつれ、「生き辛さはすべて家族のせい」と過度に解釈され、心理学や精神医学の学術的な支えを失い、一時のブームとして終息する結果となりました。

近年、メディアで注目される「ヤングケアラー」も、アダルトチルドレンと同様に家族関係の中で抑圧された経験を抱える人々の一部を指します。ヤングケアラーとは、親の病気や障害のために幼い頃から家事や介護を担わされ、常に親の機嫌を伺いながら生活せざるを得なかった子供たちのことです。このような環境で育った人々もまた、感情を抑えがちになり、自己肯定感が低いまま生き辛さを抱えて大人になります。

アダルトチルドレンやヤングケアラーとして苦しむ人々の多くは、子供時代に親の愛情を十分に受けられず、親の期待に応えなければ認められないという苦しみを味わいました。大人になり経済的に独立しても、親から受けた心の傷が癒えず、時折浮かび上がる親への恨みが心の成長を妨げ、前に進む力を奪ってしまうことがあります。
こうした悪循環から抜け出すためには、信頼できる人との新しい出会いや支えが大切です。友人やパートナー、または心理カウンセラーとの関係が、傷ついた心に安らぎを与えてくれる可能性があるのです。利害関係のない良好な人間関係こそが、唯一心を癒し、自己肯定感を高める方法かもしれません。
精神科医の夏苅郁子さんは、統合失調症の母親と暴力的な父親の家庭で育ち、絶望感や自傷行為といった苦しみを経験しつつも、信頼できるパートナーや共通の経験を持つ友人との関係を通じて、心を成長させていきました。彼女のように、親の不完全さを受け入れ、いつか親を許すことが、苦しむ人々にとって重要な一歩になるのかもしれません。
「親に愛してもらえなかった恨みは、親と縁を切ることで解消できるものではないかもしれません。心に少し余裕ができたとき、親の不完全さを受け入れ、いずれ許すことができるようになることで、私たちの心も開放され、前に進めるのではないでしょうか。」