――“気分”より“行動”に目を向けるセルフチェック――
抑うつ状態は、本人が「落ち込んでいる」と自覚できないまま進行することが少なくありません。なぜなら、私たちは体温計のように「気分」を数値で測る道具を持っておらず、調子が悪いことを感情だけで判断しようとすると見落としやすいからです。
そこで役立つのが、行動や生活リズムの変化に注目する方法です。今回は、臨床現場でも初期サインとして重視される5つのポイントを、日常の例とともにご紹介します。
スマートフォンを楽しむこと自体が悪いわけではありません。問題は、使用時間や目的が極端に変わったかどうかです。
こうした行動の急激な変化は、気分転換を図ろうとしているのに実は疲れをため込んでいるサインになり得ます。スマホ以外にも、遅刻・早退の増加、飲酒量・喫煙量の急増など、生活のバランスが崩れていないか振り返ってみましょう。
抑うつ状態では、心だけでなく体にも変化が表れやすい特徴があります。最も多いのが全身倦怠感です。
もちろん倦怠感は貧血や甲状腺機能低下症など身体疾患でも起こりますから、気になる場合は内科的な検査が大前提です。ただし検査に異常がなく、しかも**日内変動(朝が最もつらく夕方に軽快)**を示す場合は、抑うつ症状の可能性を視野に入れるのが安心です。

「好きだったことが楽しめない」「面白かった動画がうるさく感じる」という体験は、専門用語でアンへドニアと呼ばれます。
アンへドニアは抑うつ状態の核心症状のひとつで、倦怠感や気力低下と組み合わさると日常生活を大きく制限します。「楽しめない」ことに気づいたときは、無理に楽しもうとせず一度休息を取り、状態を客観視する機会を設けましょう。
うつ病では8割近くの方が不眠を経験するといわれます。一方で**過眠(寝ても寝ても眠い)**を訴える方も約3~4割存在します。
「眠れないし眠い」という矛盾を抱えると、“寝方・起き方を忘れた”感覚に陥りがちです。睡眠と覚醒は心身の回復に必須の生理現象。乱れが続く場合は、睡眠衛生(寝る前のスマホ制限・照明・室温など)の見直しと専門家への相談を検討しましょう。
最も深刻なのが**希死念慮(死にたい・消えたい気持ち)**です。抑うつ状態では、自分の変化に気づけないまま
「もう頑張れない」「この先が見えない」
という絶望感だけが急に浮上することがあります。
希死念慮は“心の火災報知器”です。一人で抱え込まず、家族・友人・医療機関・相談窓口など、必ず誰かに声を上げてください。
1~2週間続けてみると、自分の傾向が可視化され、変化に気づきやすくなります。

抑うつ状態は適切な休養と治療により改善が期待できる症状です。「まだ大丈夫」と頑張り過ぎず、“おかしい”と感じた時点で援助を求めることが、回復への一番の近道になります。
抑うつ状態は、気分だけを手がかりにすると見逃されやすい一方、行動・身体・生活リズムを観察することで早期に気づける可能性が高まります。
これら5つのサインは、あなた自身やあなたの大切な人を守るヒントになります。小さな異変こそが大きなSOSの始まりかもしれません。
心と体の声に耳を澄まし、必要なときには迷わず専門家の手を借りましょう。今日の気づきが、明日の安らぎにつながることを願っています。