〜双極性障害のうつ期と向き合うために〜
双極性障害のうつ期は、うつ病と共通する部分がある一方で、特有の深いしんどさや葛藤を抱えやすい時期でもあります。今回は、「重いうつ期を経験した人だけがわかること5選」として、その特徴を解説し、あわせて少しでもこの時期を乗り越えるための工夫もご紹介します。双極性障害と向き合うご本人はもちろん、ご家族や支援者の方にもぜひ知っていただきたい内容です。

まず、うつ病と双極性障害のうつ期の症状自体に大きな違いはありません。しかし双極性障害では、軽躁状態や躁状態からうつ期に移行するスピードがとても速いという特徴があります。
数時間前、あるいは数分前まで笑顔で話せていたのに、ふとした瞬間に気持ちが暗闇に落ちてしまう。歯磨きをしている間に、トイレに入っている間に、あまりに唐突に「スイッチが切り替わる」ようにうつ状態に移行してしまうことも少なくありません。
ただ落ちるのではなく、まるで終わりのない底に向かって無限に沈んでいくような感覚。この「一瞬でどこまでも落ちていく」体験は、双極性障害のうつ期を持つ方特有の、深くつらい特徴の一つです。

うつ状態で最も多い身体症状の一つが「全身倦怠感」です。それに加えて「精神運動抑制」という、心も体も動きが遅くなってしまう症状も起こりやすくなります。そのため、体を起こすのも、指一本を動かすのも、トイレに行くのも大変に感じてしまうのです。
特に双極性障害のうつ期では、この「鉛のような体の重さ」がより頻繁に報告されています。「重力が1000倍になったみたいだ」と感じるほどのしんどさに苦しむ方もいます。この倦怠感は、ただの「だるさ」ではなく、生活すべてを奪うほどの強い症状であることを知っておくことが大切です。
うつ状態にある人は、過去の出来事に対する過剰な後悔や、将来への不安を抱えがちです。これはうつ病でも見られる特徴ですが、双極性障害の場合はさらに深刻です。
というのも、双極性障害の方は、過去に軽躁状態や躁状態で「やりすぎてしまったこと」が現実的な問題として残ることが少なくありません。たとえば金銭的な失敗、対人関係のトラブル、仕事での失敗など…。
うつ状態になると、これらの「現実的な後悔」と、うつ特有の「不合理な後悔や不安」が同時に押し寄せます。この二重のストレスが、ただでさえ苦しいうつ期をさらに重くしてしまうのです。

うつ状態では不眠がとても多いですが、双極性障害のうつ期ではさらに「過眠」や「昼夜逆転」も起こりやすいことが知られています。
夜眠れないのに、朝や昼は体が起きられず、布団から出られない。この睡眠と覚醒のリズムの乱れが、社会生活や人間関係に影響を及ぼし、ますます自己肯定感を下げてしまうという悪循環に陥ることも多いのです。
「眠れない」という苦しみと、「起きられない」という苦しみ。この両方に同時に苦しめられるのも、双極性障害のうつ期でよく見られる特徴です。
うつ状態にある人は皆、「少しでも早くこの苦しみから抜け出したい」と思うものです。しかし双極性障害の方の場合、「元気になったら、また軽躁や躁状態になってしまうのではないか」「また人に迷惑をかけてしまうのではないか」という不安も同時に抱えます。
「治りたいけど、治るのが怖い」「元気になりたいけど、また繰り返すのでは」という強い葛藤は、双極性障害のうつ期に特有の苦しみと言えるでしょう。自分がどこを目指せばよいのかもわからず、混乱や自暴自棄に陥ることもあります。
とてもつらいうつ期を過ごす中で、「何かした方がいいのでは」「このままではいけないのでは」と思う方もいるかもしれません。ここで、少しでも気持ちを軽くするための工夫を3つご紹介します。
① 一時停止する勇気
「やらなければいけない」と思うことが山ほどあるかもしれません。でも、無理に進もうとすると、さらに落ち込んだり後悔したりしがちです。思い切って、今抱えている課題や義務を一度ストップしてみてください。休むことは悪いことではなく、必要な回復の一歩です。
② 服薬を続ける
双極性障害では、再発を防ぐためにも服薬が非常に大切です。うつ期には特に薬を飲み忘れやすいですが、ご家族や支援者のサポートを得ながらでも、できる限り続けてみてください。それが今のしんどさを和らげるだけでなく、将来の再発予防にもつながります。
③ 朝の天気チェック
何かをやらなきゃと焦った時は、「朝、天気をチェックする」「朝日を浴びる」など、ほんの短時間でできる行動から始めてみてください。朝の日光を浴びることは、数週間後に気分を上げる効果もあると報告されています。無理をせず、小さな一歩を続けていくことが大切です。
双極性障害のうつ期は、ただつらいだけではなく、落ち方の速さ、体の重さ、過去と未来の不安、睡眠の乱れ、治りたいけど治るのが怖いという複雑な心の葛藤など、多くの苦しみを伴います。
でも、ペースを落として「ボチボチでいい」と自分に言ってあげることが大切です。そして、どんなに深い闇の中にいるように感じても、少しずつでも前に進める可能性はあります。
今つらい思いをしている方が、自分だけではないことを知り、「少し休んでもいいんだ」と思えるきっかけになれば幸いです。