【医療・製薬業界が激震】睡眠薬を飲むと脳にゴミが溜まって認知症を招くのか?【マイスリー・ゾルピデム】

【医療・製薬業界が激震】睡眠薬を飲むと脳にゴミが溜まって認知症を招くのか?【マイスリー・ゾルピデム】

「睡眠薬を飲むと脳にゴミが溜まって認知症になるのではないか?」
最近、そんなニュースや記事を目にして不安を感じた方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、このテーマについて大きく3つの視点からお話ししたいと思います。

1つ目:「的外れ」ということ

1つ目:「的外れ」ということ

まず大前提として、今回の話題のきっかけになったのは、2025年2月6日に世界的に権威のある科学雑誌『Cell(セル)』に掲載された、アメリカ・ロチェスター大学からの研究報告だと考えられます。

この研究は、筆頭著者のナタリー・ハウグランド先生、そして脳科学の分野で非常に有名なマイケン・ネダーガード先生によって行われました。特にネダーガード先生は、脳に溜まる老廃物であるアミロイドを睡眠中に取り除く「グリンパティックシステム」を世界で初めて発見したことで知られています。

わかりやすく説明すると、このグリンパティックシステムは「脳のお掃除システム」です。例えるなら脳はトイレで、アミロイドという老廃物はうんちのようなもの。そして睡眠は、水洗トイレのレバーのような役割を果たし、活動中に溜まった老廃物を流してくれるのです。

私たちは日中、脳をたくさん使い、その結果として老廃物が溜まります。しかし、夜にしっかりと深い睡眠をとることで、水洗レバーをしっかり回し、脳の中をきれいに掃除しているのです。このアミロイドが排出されずに溜まり続けると、アルツハイマー型認知症などのリスクが高まると考えられています。

今回の研究では、マウスを使った非常に高度な実験で、この「脳のお掃除システム」を動かす仕組みを詳しく調べました。そして、睡眠中にノルアドレナリンという神経伝達物質が50秒ごとに活動が強まったり弱まったりすることで、ポンプのように脳内を循環させ、老廃物を押し流していることがわかったのです。

ところが、ここで注目されたのが、ゾルピデム(商品名マイスリー)という睡眠薬です。この薬をマウスに与えると、ノルアドレナリンのリズムが乱れ、脳のお掃除機能が抑えられる可能性があることもわかりました。しかし、重要なのは、これはマウスでの実験結果であり、人間で認知症の原因になると証明されたわけでは全くありません。

さらに言えば、同じように脳を落ち着かせる作用を持つお酒一部の血圧の薬抗不安薬なども同様の影響を与える可能性があります。決してマイスリーだけが特別に悪いということではないのです。

つまり、「睡眠薬を飲むと脳にゴミが溜まって認知症になる」という単純な話ではなく、メディアの取り上げ方が少し的外れであるというのが、本来伝えるべき重要なポイントなのです。

2つ目:「勝手にやめない」ことの大切さ

2つ目:「勝手にやめない」ことの大切さ

この研究結果やニュースを知って、不安になった方の中には「すぐにでも薬をやめたい」と感じた方もいるかもしれません。しかし、ここで最も大事なのは「主治医に相談せずに勝手にやめない」ということです。

マイスリーをはじめとする睡眠薬が、直接的に認知症を引き起こすという科学的証拠はまだありません。もし急に薬をやめてしまうと、不眠の再発や不安、動悸、発汗、しびれなど、離脱症状と呼ばれるつらい症状が出る可能性があります。こうした体験は精神的にも大きな負担になり、「やっぱり自分は薬なしではダメなんだ」と思い込んでしまうきっかけにもなりかねません。

不安を感じたときこそ、主治医とよく相談しながら薬の量を減らす方法や、他の治療法を一緒に考えていくことがとても大切です。薬はあくまで生活の質を守るための手段ですから、正しい方法で向き合うことが安心につながります。

3つ目:「立ち止まって考える」こと

3つ目:「立ち止まって考える」こと

最後に、この記事をお読みの医療従事者の方々、特にこれからマイスリーやゾルピデムを処方しようとしている先生方にお伝えしたいことがあります。

今回の研究は、マイスリーが認知症の原因になると断定したわけではありません。しかし、多くの大規模研究で、マイスリーの効果と副作用のバランスは決して理想的とは言えないという結果も出ています。実際、私自身も患者さんに処方する薬として、マイスリーはあまり積極的に勧めたい薬ではありません。

睡眠障害の治療で一番大切なのは、薬を出す前に、生活習慣精神面のケアを徹底することです。それでも必要な場合には、より安全性と効果のバランスがとれた薬を選ぶ選択肢もたくさんあります。薬の力を借りることは悪いことではありませんが、患者さんの未来を見据えた上で、慎重に選んでいただきたいと思います。

最後に

「睡眠薬を飲むと認知症になる」という話題は、多くの方にとってとても不安をあおるものです。しかし、研究の本質はそこにはなく、「脳のお掃除システム」の仕組みを解明したという素晴らしい発見でした。

不安になったときは、まず立ち止まって情報を整理し、主治医に相談すること。そして医療者側も、薬だけに頼らず、生活や心のケアを大切にすることが、何よりも重要です。

正しい知識と冷静な判断で、安心して眠れる毎日を守っていきましょう。