双極性障害(いわゆる躁うつ病)は、気分の波が激しく、日常生活に大きな影響を及ぼす精神疾患のひとつです。この病気を抱える方々の行動には、ある種の“癖”のように見える特徴が表れることがあります。
もちろん、ここでご紹介する“癖”は、医学的には症状の一部とされることも多く、単なる個性や性格では説明できない深い背景があります。しかし、周囲の理解を促し、ご本人自身もセルフケアのヒントとするためには、こうした行動傾向を知っておくことは非常に有意義です。
本記事では、双極性障害の方に見られやすい6つの「癖」について、丁寧に解説してまいります。

双極性障害の方が軽躁状態または躁状態にあるとき、非常にエネルギッシュで自信に満ちあふれた気分になります。この状態では、「AIを使って一攫千金を狙う」「有名インフルエンサーになって大企業と契約する」など、壮大な夢や計画を突然思いつくことがあります。
しかし、それらの計画はしばしば具体性に乏しく、現実味が伴わないことも多く見受けられます。とはいえ、軽躁・躁状態における行動力は非常に高まっているため、「国を動かす必要がある」として実際に政治家に直談判を試みるなど、突飛な行動に出ることもあります。そして、気分が落ち着いた後にその行動を深く後悔してしまうケースも少なくありません。
こうした「計画癖」は、病気の症状のひとつである「異常な自己評価の高揚」や「行為心迫(こういしんぱく)」と深く関係しています。軽躁状態や躁状態のたびに似たような行動パターンを繰り返すことから、結果的に“癖”のように周囲に映るのかもしれません。

浪費もまた、軽躁・躁状態において頻繁に見られる行動のひとつです。この状態では、金銭感覚が緩くなり、楽観的な思考が優位になります。その結果、無謀な投資やギャンブル、高額な事業への一発勝負的な出資など、大金を費やしてしまうことがあります。
ある方は、高級外車や宝石を次々と購入し、また別の方は夜の飲食店で一晩に何百万円ものお金を使い切ってしまうことも。こうした行動は、その時点では「必要な投資」や「人生を変えるチャンス」と感じられているのです。
しかし、気分が落ち着いたあとに現実を直視すると、膨大な借金が残り、経済的・社会的にも深刻な問題を引き起こすことになります。これもまた、双極性障害の症状に深く根差した“浪費癖”の典型例といえるでしょう。

双極性障害は、気分の障害だけではなく「体内時計の障害」という側面もあります。そのため、多くの方において睡眠と覚醒のリズムが大きく乱れがちです。寝つきが悪くなり、次第に就寝時刻が遅くなる「睡眠覚醒相後退」型のリズムがよく見られます。
また、なかには「非24時間型」と呼ばれる、毎日寝る時間がずれていき昼夜逆転してしまうパターンや、いつ寝ていつ起きるのか本人にも分からなくなる「不規則睡眠型」に陥るケースもあります。
このような睡眠リズムの乱れは、うつ病に比べても3倍以上の頻度で報告されており、再発リスクとも関連していると言われています。睡眠リズムを整えることが、病状の安定にも非常に重要な意味を持つのです。
「寝坊癖」は単なる生活習慣の問題ではなく、医学的な治療の対象となる可能性があるという点に、ぜひ留意していただきたいと思います。
躁状態や軽躁状態で非常に活動的だった方が、うつ状態に転じると、一転してまったく何もできなくなるという落差が訪れます。その結果、仕事・趣味・家事・人間関係といった日常のあらゆる側面が途切れ、時には外出すらできなくなってしまうこともあります。
とくに、軽躁状態のときに勢いで引き受けた多くの仕事や予定が、うつ状態になると重荷としてのしかかり、対応が困難になるケースが多々あります。そうなると、相手への連絡さえできなくなり、約束を果たせなかった自分を強く責めてしまい、社会的信用や人間関係を損ねてしまうことも少なくありません。
こうした「断絶癖」を防ぐためには、気分が高揚しているときでも自分の行動を意識的に抑える工夫や、周囲のサポートが不可欠です。
双極性障害の方の多くが、躁と抑うつの波の中で何度も失敗や後悔を経験します。その積み重ねが、「自分はダメな人間だ」という強い自己否定感へとつながっていくのです。
たとえ症状が落ち着き、「寛解(かんかい)」と呼ばれる比較的安定した状態になっても、過去の自分の言動を思い出しては自責の念に苛まれる方が少なくありません。
私から見れば、このような苦しい病と闘いながらも一生懸命に日々を生きていること自体が尊いことであり、誇るべき姿であると感じます。しかし、当事者の方にとっては、自分の努力や苦労を素直に認めることが非常に難しいのが現実です。
双極性障害の方は、躁状態における突飛な行動で周囲と摩擦を生んでしまったり、うつ状態において人間関係を断絶してしまったりと、対人関係において大きな波を経験します。
その結果、自ら人との関わりを避けるようになってしまうことがよくあります。「自分はもう社会に出る資格がない」「誰にも理解されるはずがない」と感じ、心を閉ざしてしまうケースも少なくありません。
その気持ちは想像に難くなく、苦しみを誰にも打ち明けられないまま孤立してしまうという“癖”のような傾向につながっていくのです。
今回ご紹介した6つの癖は、いずれも双極性障害という病の中で生まれてくる特徴的な行動パターンです。決して本人の「怠惰」や「性格の弱さ」に起因するものではありません。
もしご自身や身近な方に心当たりがある場合は、ぜひ専門的な支援や医療機関に相談することを検討してください。また、周囲の方も「理解されない苦しみ」の存在を知り、共感的なまなざしで見守っていただければと思います。
この病気は確かに困難を伴いますが、正しい知識と適切なサポートがあれば、安定した生活を送ることも決して不可能ではありません。癖の奥にある「症状」と向き合いながら、自分自身を責めすぎず、丁寧に心と体をケアしていくことが大切です。