抗不安薬(ベンゾジアゼピン系や類似薬)は、強い不安や緊張、パニック発作、不眠などを短時間で和らげる効果があります。即効性が高い一方で、長期連用すると耐性や依存が形成されやすく、突然の中止で離脱症状が現れることが知られています。ただし「怖い薬だから早くやめたほうがよい」という短絡的な結論でも、「一生飲み続ければよい」という極端な考え方でもありません。大切なのはメリットとリスクのバランスを評価しつつ、信頼できる医療者と二人三脚で計画的に服薬を調整することです。
本稿では、自己判断で急に断薬した場合に起こり得る代表的な五つの変化を解説します。文量の都合で完全な網羅はできませんが、抗不安薬との付き合い方を考える一助になれば幸いです。
【重要なご注意】
本稿は一般的な医学情報の紹介を目的としており、個々の診断・治療行為を指示するものではありません。既往歴や併用薬、生活環境によって最適な減薬スケジュールは大きく異なります。自己判断で服薬を変更すると重大な健康被害を招く恐れがありますので、必ず主治医や薬剤師に相談のうえ実行してください。また、ここで取り上げた離脱症状は代表例であり、すべての方に同じ形で現れるわけではありません。
統計的には、離脱リスクは「服用期間が半年を超える」「高用量を長期間継続する」ほど高まり、短期・低用量では低い傾向にあります。しかし個体差が大きく、同じ用量と期間でも全く症状が出ない方もいれば、強い離脱に苦しむ方もおられます。常に“自分の体の反応”を最優先に観察してください。

「不安の薬をやめたら気分が落ち込むのはおかしいのでは」と思われるかもしれません。ところが、離脱によってGABA作動系が急低下すると、脳の報酬系が一時的にブレーキをかけられ、意欲や快感が生じにくい状態になります。朝の起床が極端につらくなったり、趣味が楽しめなくなったり、家族に「顔色が暗い」と指摘されたりするのは典型例です。この段階で「うつ病を発症した」と早合点し、新たな抗うつ薬が追加されることもありますが、まずは減薬ペースを見直すだけで改善するケースが少なくありません。

離脱症状は“中枢神経の揺り戻し”と形容されます。脳が「刺激が足りない」と誤認し、神経の興奮性を過度に高めるため、末梢神経の異常発火が起こりやすくなります。ビリビリと電気が走る感じ、虫が這うようなむずむず感、ジーンと麻痺したような違和感など、感じ方はさまざまですが強い不快感を伴います。整形外科や神経内科で検査しても異常が見つからず、「原因不明」と説明されると余計に不安が助長される悪循環に陥りがちです。

反跳不安は“今までの不安+α”として現れ、本人の主観では「人生最大級の恐怖」に感じられることがあります。発作は数十分以内に自然軽快するとはいえ、その最中は「気が狂うかもしれない」「死んでしまう」といった破局的思考が支配的です。夜間に発症して救急搬送される事例も少なくなく、検査で異常が見つからないとさらに不安が増すという悪循環に陥ることがあります。
離脱症状は生理的反応ですが、体験としては極めて主観的で感情的です。急断薬でひどい体験をした方は、将来「減薬」という言葉を聞くだけで身体が固まるような条件反射を起こすことがあります。これはPTSDの回避症状と似たメカニズムで、心理士によるトラウマ・フォーカスト療法が必要になる場合もあります。心理的依存が絡むことで問題が複雑化しやすい点を忘れてはなりません。
離脱が起きない理由としては、①服用期間が短かった、②用量が少なかった、③半減期が極めて長い薬だった、④遺伝的に代謝が遅く血中濃度の低下がゆるやか、⑤本来の不安障害が軽症だった、などが挙げられます。SNSでは強烈な体験談ほど拡散されやすく「絶対に地獄を見る」と誇張されがちですが、誰もが同じ経過をたどるわけではありません。
◆補足 ガイドラインの原則
国内外とも「数週~数か月かけて少しずつ減量し、つらければ一段階戻す」ことが共通の推奨です。急断薬のメリットは確認されていません。
Q:半錠でも残っていれば離脱は起きませんか?
A:用量よりも「血中濃度の急激な変化」が離脱を招くため、半錠でも急に断てば症状は起こり得ます。
Q:市販のサプリで代用できますか?
A:不安軽減をうたうサプリがありますが薬ほどの効果は確認されておらず、自己判断での置き換えは避けてください。
抗不安薬の急な中断は、抑うつ、しびれ、不安発作、トラウマ化など多様なリスクを伴います。一方、何も起こらない方も一定数いるため、ネットで語られる“成功談”も“地獄体験”も極端な例にすぎません。正しい情報の下で段階的に減らせば、ほとんどの方が安全に断薬できます。不安なときほど独りで抱え込まず、医師・薬剤師・心理士といった専門家に相談しながら、焦らず一歩ずつ前進していきましょう。