統合失調症とはどのような病気なのでしょうか。この病気に対する理解を深めるには、2001年のアカデミー賞受賞映画「ビューティフル・マインド」を思い出すとわかりやすいでしょう。この映画は、ノーベル経済学賞を受賞した数学者ジョン・ナッシュ博士の自伝を基にしており、彼の視点で進行します。しかし物語が進むと、彼が見ていた光景の多くが実は幻覚であることが明らかになります。観客がその事実に驚くのと同時に、ナッシュ博士がこの幻覚に悩まされていたこと、そして彼が統合失調症という病気を抱えていたことを知ります。
統合失調症は、さまざまな精神的な影響をもたらす病気です。幻覚や妄想などが現れ、進行すると無関心や無気力といった症状が現れることもありますが、軽症のままで社会生活を送り、仕事をしている人も多くいます。特に現代では軽症のケースも増えています。
「統合失調症」の「統合」とは、心の中の思いや感情などを調整し、一貫した意識状態を保つことを指します。この能力が低下し、自分の中に自分以外の思いや声が勝手に出入りし、それを自分の意識内でまとめきれない状態が統合失調症です。これは「心の中で起きていることを自分で把握できなくなる」状態とも言えます。

統合失調症の幻覚は主に「幻聴」として表れることが多く、視覚的に何かが見える「幻視」は少ないとされています。例えば、聖書の記述にはイエス・キリストやモーセが神の声を聞いたとあり、霊能者も死者と会話をすると言われます。では、宗教家や霊能者と統合失調症の人の違いは何なのでしょうか。
統合失調症では、聞こえる思いや声を現実のものとして認識し、それに巻き込まれてしまい、自己コントロールができなくなることが特徴です。これが生活にも支障をきたし、病気の症状として現れます。幻聴の内容は人によって異なり、日常的に会話するようなものから、亡くなった母親が懐かしい声で語りかけてくるもの、また悩んでいる時にアドバイスをくれる声など、その内容もさまざまです。
統合失調症で最もつらい症状のひとつが、本人が気にしていることをあげつらうような幻聴です。例えば、失敗すると「お前は必要のない人間だ」、容姿に悩んでいる人には「きもい」といった声が聞こえてくるなど、辛辣な言葉が日常的に聞こえることがあります。このような悪口が一日中続くと、精神的な負担が増し、深刻な場合は自殺を考える状況に追い込まれることさえあります。
また、幻聴を実際の声と勘違いしてしまい、自分の秘密が誰かにばらされてしまうのではないかといった被害妄想を持つこともあります。これが進むと、誰かに見られている気がする、家に盗聴器があるのではないか、自分の心が読み取られているのではないか、といった被害妄想に発展することがあります。
統合失調症の幻覚を理解するモデルとして、1950〜60年代に行われた「感覚遮断」の実験が参考になります。感覚遮断とは五感への刺激をできるだけ少なくすることで、具体的な実験として、アイソレーションタンクに体温と同じ温度の塩水を入れ、その中に浮かぶなどして音や光を遮断します。このような状況に置かれた人々の約半数が、何らかの幻覚を体験するとされています。このことから、統合失調症の幻覚も孤独な生活から現実の刺激が減少することで生じやすくなるのではないかと推測されています。
また、内向的で対人関係に不安を抱える傾向が強い人や、アスペルガー症候群の人が統合失調症を発症しやすいとも言われています。外界からの刺激が少なくなることで、脳が現実と異なるものを認識しやすくなるのかもしれません。
さらに幻覚を理解するためのもう一つのモデルとして、アンフェタミン(覚せい剤)の影響が挙げられます。覚せい剤は脳内のドーパミン分泌を活性化させ、覚醒状態にするとともに幻覚を引き起こすことがあります。覚せい剤の影響は一時的ですが、統合失調症ではこれと似た現象が持続的に起こり、ドーパミンが異常に分泌されたままの状態になるとされています。このため、統合失調症の治療にはドーパミンの作用を抑える抗精神病薬が使用されています。

統合失調症の発症原因には生まれつきの要素が強いとされ、特に双子の研究がそれを示しています。一卵性の双子は遺伝子が100%同じで、統合失調症の片方が発症した場合、もう片方も発症する割合は3割程度です。一方で、二卵性双子(遺伝子が50%同じ)の場合はその割合が1割程度です。統計的には遺伝の影響が70%、環境の影響が30%程度とされ、発症には生まれつきの要因が大きいことが示唆されています。しかし、統合失調症の正確な原因は今なお完全には解明されていません。
1952年に発見された「クロルプロマジン」は、最初の抗精神病薬として知られており、その後も多くの抗精神病薬が開発されています。これらの薬は単に幻覚を抑えるだけでなく、意欲や気分の改善効果も持ち、統合失調症の治療において不可欠な役割を果たしています。統合失調症は「心の病」と言われますが、抗精神病薬が非常によく効くため、治療において薬物療法が最優先とされています。
統合失調症の場合、カウンセリングによって心を深く掘り下げる行為が逆に不安を増幅させ、症状を悪化させることがあるため注意が必要です。カウンセリングに替わり、ソーシャルスキルトレーニングは人間関係のスキルを養うもので、統合失調症の患者が社会生活を円滑に送れるようサポートする目的で取り入れられています。
統合失調症は、早期発見と適切な治療によって症状の改善が期待できる病気です。幻聴や妄想といった症状を理解し、薬物療法やソーシャルスキルトレーニングといった治療方法によって適切に対処することが重要です。