双極性障害は、気分の極端な波によって日常生活にさまざまな影響を及ぼす、非常に繊細な精神疾患です。患者本人だけでなく、周囲の理解や支えも必要不可欠なこの病気では、「何をするか」と同じくらい、「何をしてはいけないか」が重要となります。ここでは、治療の現場で実際に多くの患者さんと接してきた専門医の立場から、双極性障害の方が絶対に避けるべき5つの行動を紹介し、その理由と背景を解説いたします。

朝の散歩は一見、健康的で前向きな行動に思えるかもしれません。実際、日光を浴びることには「抗うつ効果」があるとされ、特に午前中の強い自然光を浴びることが、うつ状態の改善に役立つという報告もあります。
しかし、この「光による効果」が、すべての時期において好影響を与えるわけではありません。特に軽躁状態や躁状態のときには注意が必要です。光刺激がテンションをさらに押し上げ、気分の高揚を助長してしまうリスクがあるのです。つまり、無自覚のうちに症状を「悪化」させてしまう危険性があるということです。
こうした背景から、軽躁状態や躁状態の方には、日中でも光を浴びすぎないように意識し、ブルーライトカット眼鏡などを活用することが推奨されています。

徹夜は心身に負担をかける行為ですが、精神医学においては「睡眠制限療法」や「断眠療法」として、うつ症状に対する即効的な効果があることも知られています。実際に治療の一環として行われることもあるほどです。
ところが、双極性障害の方にとっては、これは極めて危険なアプローチとなります。睡眠不足によって躁状態へ一気に転じてしまう「躁転(そうてん)」という現象が引き起こされる可能性があるのです。うつ状態にある場合でも、睡眠の質と量を損なうことは気分の安定に悪影響を及ぼします。
基本的には、毎日同じ時間に寝て、同じ時間に起きるという規則正しい生活習慣を徹底することが、症状の再発予防につながります。

「少しくらいなら…」と考えがちな飲酒も、双極性障害にとっては大きなリスクです。アルコールは気分を上下に揺さぶる作用があり、飲酒直後には軽躁的になりやすく、酔いが冷めたあとには逆にうつ状態へと急降下する可能性があります。まさに気分の不安定さを助長する作用があるのです。
加えて、精神科で処方される薬はアルコールとの併用を前提としていません。そのため、服薬中に飲酒をすると、薬の効き目が弱まるどころか、思わぬ副作用を招くおそれもあります。
さらに、双極性障害の方は依存症との親和性が高いことも知られています。飲酒が習慣化することで、アルコール依存症を併発するリスクが高まるため、治療を受けている間は極力控える、あるいは避けることが望ましいのです。
「もう大丈夫だから」「薬は体に悪そうだから」といった理由で、自己判断によって薬の量を減らしたり、飲むのをやめたりするのは極めて危険です。
双極性障害においては、薬物療法が再発予防と社会復帰の鍵を握っているとされています。医師の指導のもと、適切に服薬を続けることにより、気分の波が小さくなり、再発のリスクが大幅に低下することが報告されています。また、長期的な視点では、脳の機能的な回復や寿命の延伸にも寄与するとする研究もあります。
もし副作用などで苦しんでいる場合は、必ず主治医に相談すること。周囲の「薬をやめたら?」という声に惑わされることなく、専門家の助言を第一に考えましょう。
最後に、意外に見落とされがちなのが「即断即決」の危険性です。特に躁状態にある場合、人は自分を過大評価し、リスクの大きい決断をしてしまうことがあります。
たとえば、高額な買い物、無謀な起業、突然の引っ越しや退職、他人との衝突などが代表的な例です。こうした行動は、その瞬間は理にかなっているように思えても、冷静になったときに大きな後悔を招くことになります。
うつ状態や混合状態でも、衝動的な自傷や暴言などが問題となるケースがあります。そうしたときこそ、「今それを決める必要があるのか?」「一晩考えてからにできないか?」と自分に問い直す習慣を身につけることが非常に重要です。
双極性障害と共に生きるということは、自分自身の心と丁寧に向き合うことです。やってはいけない行動には、いずれも「気分の波を大きくしてしまう危険性」が潜んでいます。焦らず、無理せず、日々の習慣を大切にしながら、自分に合ったリズムで過ごしていきましょう。
もし迷いや不安があるときは、信頼できる医療者に相談することが何よりの安心につながります。周囲の無理解や偏見に悩まされることもあるかもしれませんが、正しい知識を持ち、冷静な判断ができるあなた自身が、何よりも自分の一番の味方です。