自分自身を傷つけてしまう「自傷行為」は、決して軽視できない心のSOSです。家族や友人、同僚など身近な人が自傷行為を行っていると知ったとき、私たちはどのように接するのがよいのでしょうか。
ここでは、自傷行為に悩む人への対応として避けるべき対応を三つ紹介した上で、より適切な関わり方を解説していきます。実は、「うまくいかない対応」を知っておくことが、最善のサポートへの第一歩になります。
1. 叱る
まず最初に、絶対に避けたいのが「叱る」という対応です。
自傷行為をしてしまった人の多くは、すでに自分自身に対して強い否定的な感情を抱いています。自分を傷つける行為が良くないものであることを十分理解しており、そのことに対して恥ずかしさや後ろめたさを感じている場合が多いのです。
実際、自傷行為をしている人の約8割は、それを誰にも知られないように隠して行っているという報告もあります。そんな中で、誰かに自傷行為のことを打ち明けるというのは、非常に勇気のいる行動です。その背景には「助けてほしい」「理解してほしい」という切実な思いがあります。
そうした相談を受けた際に、「どうしてそんなことをしたの!」と叱ってしまうと、本人はさらに自分を責め、心を閉ざしてしまいます。せっかくの救いのサインを叱ることで封じ込めてしまうのは、深刻な悪循環を生みかねません。
重要なのは、「打ち明けてくれてありがとう」「そんなつらさを抱えていたのですね」と、まずはその勇気をねぎらい、相手の心の痛みに寄り添う姿勢を示すことです。

2. 理由を問い詰める
次に避けたいのは、「なぜそんなことをしたの?」「どうして?」といった理由の詰問です。
もちろん、背景を理解しようとする姿勢自体は悪くありません。ただし、「なぜ」「なんで」といった問いかけには、無意識のうちに責めるようなニュアンスが含まれてしまうことが多くあります。
言葉のトーンや表情によっては、相手は「自分が悪いことをしたから責められているのだ」と感じてしまい、強い罪悪感を抱くようになります。この罪悪感がさらなる自傷行為を引き起こすきっかけになるケースもあるため、非常に注意が必要です。
もし背景を知りたいと思ったら、「何があったのか、よければ教えてくれませんか?」といった柔らかく、共感的な聞き方が望ましいです。そうすることで、本人が自傷に至った気持ちや状況、その「ストーリー」を語りやすくなります。
そのストーリーを丁寧に一緒に眺めて、「そんなことがあったのですね」「それはつらかったですね」と共感することで、相手の心の痛みを共有することができるのです。
3. 禁止する
三つ目に避けたいのが、「自傷行為をしてはいけない」と頭ごなしに禁止することです。
人間の脳は、「〜してはいけない」という否定命令を処理するのが苦手だと言われています。「自傷してはいけません」という言葉が、逆に「自傷しなさい」と解釈されてしまうリスクがあるのです。
また、禁止されること自体が大きなストレスになり、反発や孤立感を引き起こすこともあります。禁止されたことで、自傷という行動にますます執着してしまうケースも少なくありません。
ただし、当然ながら私たちは自傷行為を推奨する立場ではありません。大切なのは、禁止するのではなく、「他の方法はないだろうか?」と一緒に考えていく姿勢です。

では、どのような関わり方が望ましいのでしょうか。
まず、打ち明けてくれたことに感謝の気持ちを伝えましょう。「話してくれてありがとう」「つらかったんですね」と、相手の気持ちに共感し、否定せずに受け止めることが何よりも大切です。
次に、可能であれば自傷に至った「背景」や「状況」を一緒に確認していきましょう。そして、「もしまた同じようなことが起きたら、他の方法も一緒に考えてみませんか?」と提案してみるのが効果的です。
ここで重要なのは、「自傷行為の代わりになり得る別の方法」を一緒に探すという姿勢です。というのも、人間の脳は同時に複数の選択肢を考えるのが苦手であり、自傷という選択肢しか見えていない状態では、なかなか他の方法を思いつくことができません。
例えば、「こういうときは誰かに話す」「紙に気持ちを書いてみる」「音楽を聴く」「外に出て歩いてみる」など、自分の感情を受け止めつつ、他の手段で気持ちを落ち着ける方法を一緒に考えてみることが大切です。
自傷行為をしてしまう人の多くは、非常につらい精神的状態に追い詰められており、自分を傷つけることでしかその苦しさを緩和できないと感じています。実際、自傷行為には一時的に気持ちを落ち着ける効果があるとされており、本人にとっては「心の鎮静剤」のような意味合いを持っています。
そのため、単に否定するだけではなく、「他にもっと優しい方法はないだろうか」と悩み、模索しているという本人の葛藤を理解することが求められます。
自傷行為に対して、感情的になって叱ったり、理由を詰問したり、頭ごなしに禁止したりすることは逆効果です。そうした対応は、かえって本人を追い詰め、心の扉を閉ざさせてしまう可能性があります。
まずは、「話してくれてありがとう」という姿勢で、相手の痛みに寄り添いましょう。そして、「その気持ちをどうすれば少しでも軽くできるか」を一緒に考える──そのプロセスこそが、自傷行為に頼らずに済む未来への第一歩になるのです。
どんな人にも、寄り添いの言葉が必要です。心の苦しさを抱える人が、少しでも安心できる居場所や関係性に出会えるよう、私たち一人ひとりの関わりが求められています。