脳梗塞を起こす危険な不整脈 心房細動と睡眠時無呼吸の深い関係

脳梗塞を起こす危険な不整脈 心房細動と睡眠時無呼吸の深い関係

心房細動と睡眠時無呼吸症候群の深い関係

〜睡眠が命を守る鍵になることも〜

診療をしていると、患者さんが「これは先生の専門とは関係ないと思うんですが……」と前置きしながら話を切り出されることがあります。しかし、実際にはそうした話題の中に、睡眠と密接に関係している病気が潜んでいることが少なくありません。

たとえば、健康診断で「心電図に異常がある」と言われ、循環器内科を受診したところ「心房細動」と診断されたというケース。このようなお話を患者さんから伺うと、私たち睡眠の専門医は俄然気合が入ります。というのも、心房細動は睡眠時無呼吸症候群との関係が非常に深いことが分かっているからです。

今回は、心房細動という不整脈と、睡眠時無呼吸症候群の関連について詳しく解説していきます。

心房細動とはどんな病気か

心房細動とはどんな病気か

まず心房細動について説明しましょう。心房細動は「不整脈」と呼ばれる心臓のリズムの異常の一種です。

心臓は通常、一定のリズムで規則正しく収縮していますが、不整脈ではこのリズムが乱れます。心房細動においては、特に脈拍が不規則になりやすく、「ドクッ、ドドッ、ドクドク……」と脈がバラバラになるのが特徴です。

人の心臓は、上に左右1つずつの「心房」、下に左右1つずつの「心室」の計4つの部屋に分かれています。心房細動とは、この上部の心房が細かく痙攣することによって、心臓全体のリズムが乱れてしまう状態を指します。

似た名前の不整脈に「心室細動」がありますが、これは下部の心室が痙攣するもので、電気ショック(除細動)による緊急処置を行わないと短時間で命に関わる極めて危険な状態です。一方で、心房細動はすぐに命を奪うわけではありませんが、胸の痛みや息苦しさなどの症状を引き起こし、放置すると重大な合併症につながることがあります。

心房細動と脳梗塞の関係

心房細動と脳梗塞の関係

心房細動の最も恐ろしい合併症のひとつが「脳梗塞」です。心房が痙攣してうまく血液を送り出せない状態が続くと、心房の中に血液のよどみが生じ、やがて血栓(血の塊)ができます。この血栓が血流に乗って脳に運ばれると、脳の血管が詰まり、脳梗塞を引き起こすことがあります。

実際、著名な政治家やスポーツ関係者が、心房細動を原因とする脳梗塞で命を落としたり、後遺症を残した例もあります。

そのため、心房細動が見つかった場合は、年齢や高血圧、糖尿病の有無などを評価し、血栓予防のための抗凝固薬や、心拍のリズムを整える薬、電気的治療、あるいはカテーテル手術などを検討します。

しかし、厄介なことに、この心房細動はしばしば「原因不明」で発症します。高血圧や飲酒、甲状腺機能亢進症などがリスク因子として知られていますが、実はもっと早期の段階で予防や管理が可能な因子があるのです。

睡眠時無呼吸症候群が関係している?

睡眠時無呼吸症候群が関係している?

心房細動と深く関係しているのが「睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、SAS)」です。

これは、睡眠中に呼吸が何度も止まることで睡眠の質が低下し、さまざまな身体への悪影響を引き起こす病気です。驚くべきことに、ある疫学研究(2001年から10年間、6000人以上を対象)によれば、睡眠時無呼吸症候群があると、心房細動の発症率は実に4.01倍に上昇することがわかりました。

また、すでに心房細動をもつ人のうち、睡眠時無呼吸症候群にかかっている人の割合は、そうでない人に比べて2.19倍も高くなっています。さらには、脳梗塞の発症率も睡眠時無呼吸症候群の患者では2.18倍に跳ね上がるのです。

なぜ睡眠時無呼吸で心房細動が起こるのか?

この関連には、主に3つのメカニズムが関係していると考えられています。

1. 自律神経の異常

睡眠中の呼吸停止と再開を繰り返すことで、交感神経が過剰に刺激され、自律神経のバランスが崩れます。これが心房細動の引き金となる可能性があります。

2. 呼吸努力による刺激

喉が塞がれて息ができない状態になると、体は必死で呼吸しようと胸を大きく動かします。この時の物理的なストレスが心臓、特に心房の筋肉にかかり、不整脈を誘発すると考えられています。

3. 慢性的な心房へのダメージ

無呼吸による酸素不足やストレスが、長期間にわたり心房の筋肉にダメージを蓄積させ、結果として心房が正常なリズムを保てなくなるという仮説もあります。

睡眠時無呼吸の治療で心房細動は改善するのか?

では、睡眠時無呼吸症候群を治療すれば、心房細動も防げるのでしょうか?

この問いに対しては、すでに興味深い研究結果があります。心房細動の治療として行われるカテーテルアブレーション手術を受けた患者で、睡眠時無呼吸症候群がある場合、その1年後の再発率は82%にも達するのです。

しかし、同じ患者がCPAP(経鼻的持続陽圧呼吸療法)という治療法で無呼吸をコントロールすると、再発率は42%まで下がるというデータがあります。CPAPとは、寝ている間に鼻から空気を送り、喉の閉塞を防ぐ装置です。

さらに、睡眠時無呼吸がない患者の再発率も約40%であるため、CPAPによって心房細動に与える悪影響を限りなくゼロに近づける効果があるともいえます。

最後に〜もし心房細動と診断されたら〜

現時点では、心房細動のない段階でCPAPを使い、将来の心房細動をどの程度予防できるかという正確なデータはまだ十分にそろっていません。しかし、これまでの研究結果を見る限り、睡眠時無呼吸症候群の治療が心房細動や脳梗塞の予防に有効である可能性は極めて高いと考えられます。

心房細動は、ときに命に関わるような脳梗塞の原因にもなり得る重大な病気です。もしご自身やご家族が不整脈に気付いたり、健康診断で心房細動を指摘された場合は、心臓の検査に加えて、「眠っている間に呼吸が止まっていないか」という視点を持ってください。

そして、疑わしい場合には、ぜひ近くの医療機関、できれば睡眠医療の専門医に相談してみてください。質の良い睡眠を取り戻すことが、心臓を守り、命を守ることにつながるのです。