睡眠時無呼吸症候群(SAS)は、眠っている間に繰り返し呼吸が止まる病気で、日中の強い眠気や集中力の低下、朝の頭痛、夜間頻尿など、日常生活にさまざまな支障をきたす症状が現れることがあります。しかし、この病気の本当の怖さは、そうした不快な症状以上に、知らず知らずのうちに私たちの体を蝕み、命に関わる重大な疾患へとつながる危険性があるという点にあります。
その治療法の一つに、「CPAP(シーパップ)」という医療機器を用いた療法があります。CPAPは、睡眠中に空気を送り込み、気道を確保することで無呼吸を防ぐ装置です。実際にCPAPを使って治療を受けている患者さんの中には、機械に助けられて日中の眠気が改善され、生活の質が向上したと感じる方がいる一方で、「機械がうるさい」「マスクが鬱陶しい」「朝になると外してしまっている」など、不快感から治療を中断しがちな方も少なくありません。
よく受ける質問のひとつに、「CPAPは何時間使えばいいのか?」というものがあります。その答えは明確です。「最低でも1日4時間以上」。なぜこの“4時間”が重要なのか、詳しく解説していきましょう。

CPAP治療の意義は、大きく分けて二つあります。
睡眠時無呼吸症候群の代表的な症状である日中の強い眠気、起床時の頭痛、夜間頻尿などは、CPAPの使用によって大幅に軽減されます。こうした症状が緩和されることで、患者さんの生活の質が格段に向上し、「朝からすっきり目覚められるようになった」といった喜びの声も少なくありません。
一見、単なる“いびき”や“眠気”に見えるこの病気ですが、放置すると高血圧や高脂血症、さらには心筋梗塞や脳梗塞といった重大な疾患につながるリスクが非常に高まります。実際、1988年にカナダで行われた研究では、重度の無呼吸患者の約40%が8年間で死亡するという結果が出ています。ところが、CPAPを使用していたグループでは重症であっても死亡者はゼロだったのです。
このように、CPAPは単なる対症療法ではなく、命を守る「予防医療」の一環として極めて重要な役割を担っているのです。

では、なぜ「4時間」という時間がこれほど重要視されるのでしょうか。
2005年に発表された長期追跡研究によると、重症の睡眠時無呼吸症候群の患者は、健常者に比べて心筋梗塞で命を落とすリスクが2.87倍も高いという結果が出ています。しかし、CPAPを1日平均4時間以上装着していた患者については、そのリスクが健常者と同じレベルにまで下がったことが確認されました。
一方、2016年に医学界で最も権威のある雑誌に掲載された研究では、CPAPを使用していても心臓疾患や脳梗塞の発症率に有意差が見られなかったという、衝撃的なデータもあります。しかし、よく調べてみるとこの研究におけるCPAPの平均装着時間は「3.3時間」と、4時間を下回っていたのです。
つまり、CPAPの効果が十分に発揮されるには、「1日あたり少なくとも4時間以上」の使用が必要であることが、複数の大規模研究によって裏付けられているのです。たとえ毎晩使用していたとしても、装着時間が短ければ、期待される効果は得られにくいということになります。

とはいえ、機械をつけながら寝ることに抵抗を感じる方が多いのも事実です。鼻や口のマスクの違和感、送風音への不快感、皮膚のかぶれや乾燥など、慣れるまでにはある程度の時間がかかるでしょう。
だからこそ、医師や睡眠専門スタッフとしっかり相談し、以下のような対策を講じることが重要です。
鼻マスク、口鼻マスク、フルフェイスなど様々なタイプがあり、自分に合ったものを選ぶだけで快適さが大きく変わります。
加湿器付きCPAPを使うことで、鼻や喉の乾燥を防げます。
静音性の高い機種や、耳栓の使用も有効です。
CPAP治療は、慣れないうちはストレスを感じるかもしれません。しかし、4時間以上装着を続けることで、確実に命を守る効果があるということを、多くのデータが示しています。「ただ使う」だけでなく、「どうすれば快適に使い続けられるか」に目を向けることが、治療の成否を分けるポイントです。
睡眠時無呼吸症候群は、“ただのいびき”ではなく、命に関わる重大な疾患です。CPAPは、その命を守るために開発された確かな医療機器です。ぜひ、あなたの健康と未来のために、毎晩の4時間以上の装着を目指してみてください。そして困ったことがあれば、ためらわずに医師や医療スタッフに相談してみましょう。