自閉症の歴史

自閉症スペクトラムが現在のように理解されるまでには、様々な歴史的な変遷がありました。しかし、その過程で淘汰されたはずの考え方が未だに根強く残る地域も存在します。
今回は、過去の経緯を振り返りつつ、自閉症スペクトラム(ASD)の概念について再度整理したいと思います。

それでは、早速始めてまいりましょう。


今回は、カナーの報告からコペルニクス的転回、そして広汎性発達障害の出現から自閉症スペクトラムまでの流れを追います。

神話や伝説、フィクションの中には、自閉症を彷彿とさせる人々の行動が描かれたものがあります。

現在で言うところのASDの特徴を持つ子どもについて、初めて報告したのはアメリカのレオ・カナーでした。彼は以下のような特徴を持つ子どもたちを「早期乳幼児自閉症」という名称で呼ぶことを提唱しました。

  1. 他人との情緒的接触の重篤な欠如
  2. 同一性保持への激しい欲求
  3. 反復的なこだわり
  4. 言語の著しい異常
  5. 物を器用に操作する
  6. 高いレベルの視空間スキルと機械的記憶
  7. 魅力的で知的な風貌
  8. 生来または生後30ヶ月以内に出現する

翌年の1944年、オーストリアのハンス・アスペルガーは、後にローナ・ウィングによって「アスペルガー症候群」と呼ばれるようになる子どもたちについて報告しました。彼が描いた「自閉的精神病質」の特徴は次の通りです。

  1. 他人への不適切な近づき方
  2. 特定の物事への強い興味
  3. 一本調子の話し方
  4. 相互のやり取りにならない会話
  5. 運動協調の拙劣さ
  6. 優秀な知能水準(特定の教科に学習困難がある)
  7. 常識の欠如

アスペルガーは、これらの子どもたちの特性を遺伝による非定型的な脳の発達と考え、カナーが提唱した自閉症とは異なるものと見なしていました。また、彼はこれを男性のみに存在すると信じていました。ナチスによる障害者迫害の時代において、アスペルガーは自閉症の子どもたちを非常に肯定的に捉えました。

アスペルガーの論文がドイツ語で書かれたため、欧米では自閉症は主にカナーの報告した子どもたちを指すものとして理解されるようになりました。カナーは当初、自閉症を生まれつきのものと考えていましたが、その見解には変化が生じました。1943年の著作では「これらの子どもは、普通なら皆持つことのできる人々との感情的接触が生来的に形成できない」と述べましたが、1949年の著作では親が自閉症の原因であるとし、「心からの暖かさという母性性の欠如が見られる」と主張しました。

カナーの他にも、親の育て方に自閉症の原因を求める考え方をする人がいました。
代表的な人物は「自閉症―うつろな砦」を書いたブルーノ・ベッテルハイムです。彼は、自閉症の原因を親の愛情不足とする「冷蔵庫マザー」理論を提唱しました。

このような考え方に異を唱えたのが、ベッテルハイムの教え子であり後にTEACCHを創始したエリック・ショプラーでした。ショプラーは、自閉症を脳の機能障害と捉え、その治療や教育に取り組みました。この取り組みにより、自閉症の人たちの9割以上が地域で生活できるようになりました。

1956年以降、カナーは自閉症の本質や原因が曖昧になり、「彼は両親を非難したことはない」と主張するようになりました。1960年代以降、生物学的原因の理論が勢いを増し、自閉症の原因についての考えが次第に変わっていきました。この変化の背景には、客観的で科学的な研究の発展や専門家や親の組織の活動などがありました。

自閉症の原因を親の育て方に求める考え方に大きな変化をもたらしたのは、マイケル・ラターによる疫学調査です。彼の研究により、自閉症は親の育て方で生じるものではなく、身体的な原因によって生じることが明らかにされました。

このような流れの中で、1981年にローナ・ウィングはASDの概念を提唱しました。ASDの障害三つ組として「社会的相互交渉の障害」「コミュニケーションの障害」「想像力の障害」を挙げました。彼女は、これらの症状が連続的に移行するスペクトラム概念を提唱しました。DSM-IV-TRのような診断基準では、ウィングの三つ組の症状に似た概念を中心に据えていますが、各々の障害を非連続体としてカテゴリー化している点で、ウィングの考え方とは異なります。

いずれにしても、ASDは親が作り出すものではなく、脳の機能的・器質的な問題から生じるものであることが共通理解とされるようになりました。また、ASDは連続的な概念(スペクトラム概念)であるという理解に次第に移っていきました。

しかし残念ながら、自閉症が親の育て方によるものとして親を責める指導が行われている地域が今もなお存在します。化石となったはずの理論が現在も親を苦しめている現状があります。

以上が自閉症スペクトラムの歴史についての説明です。
それでは、またお会いしましょう。