自閉スペクトラム症(ASD)には、対人関係の難しさやこだわりの強さなど、さまざまな特性がありますが、その中でも見過ごされがちな重要なテーマの一つに「疲労への気づきにくさ」があります。
実は、ASDの方の多くは、一般の人よりも疲れやすい傾向があるにもかかわらず、「自分が疲れていること」に気づくのが非常に難しいという特性を抱えています。そして、この「疲労への気づきにくさ」は、時に心身の健康に深刻な影響を与えることもあるのです。
この記事では、ASDの方が疲労に気づきにくい理由や、その結果起こりうるリスク、さらには疲労にいち早く気づくための実践的な方法について詳しく解説していきます。
1. 感覚鈍麻(感覚の鈍さ)がある
ASDの特性として、感覚の過敏さや鈍感さが挙げられます。例えば、音に対して非常に敏感な方がいる一方で、自分の体の状態(内的感覚)に鈍感な方も多く見られます。
そのため、身体的な疲労感や痛み、満腹感など、本来であれば体が発するはずのサインを認識することが困難です。疲れているのにその感覚に気づかず、気づいたときにはすでに限界を超えている……ということが少なくありません。
2. 過集中による自己認識の欠如
ASDの方に特有の「過集中(ハイパーフォーカス)」もまた、疲労への気づきを難しくします。
過集中とは、興味や関心のあることに対して極端に注意が集中し、周囲の状況や自分の身体状態すらも忘れて没頭してしまう状態です。この間、食事や休憩、睡眠などを忘れて作業を続けてしまうことも珍しくなく、集中が切れた瞬間に一気に疲労が押し寄せ、身体が動かなくなってしまうようなこともあります。

自覚が難しいASDの方にとっては、疲労を「感覚」で察知するのではなく、行動や状態の変化を客観的にチェックすることが非常に有効です。以下に、疲労のサインとなる5つの視点をご紹介します。
1. 精神的な不調がある
こうした変化は、精神的疲労が蓄積しているサインです。
2. 身体的な不調がある
これらも疲れが体に現れた兆候です。
3. 睡眠に問題が出てきた
睡眠リズムの乱れは、心身の疲労の大きなサインです。
4. 仕事の負担が大きい
こうした環境要因は、慢性的な疲労を引き起こす可能性があります。
5. パフォーマンスが落ちてきた
こうした変化が見られた場合、疲労の蓄積が疑われます。

疲労を自覚しにくいASDの方が、限界を迎える前に自分の状態を理解するためには、以下のような具体的な方法が役立ちます。
1. 感覚ではなく「時間や量」で休息をとる
ASDの方は「なんとなく疲れた」という主観的な感覚に頼るのが難しいため、客観的な指標を設けて休憩を取ることが重要です。
たとえば、
といったように、数値化されたルールを自分で決めて、それを守ることを意識すると良いでしょう。
過集中対策として、タイマーやアラームを使って強制的に休息を取ることも非常に効果的です。「これ以上やるとまずい」という自分なりのラインを意識しておくと良いでしょう。
2. 自分なりの「疲労サイン」を見つける
「頭痛がしてきたら休憩を取る」「イライラしてきたら一度作業を中断する」といった、自分特有の疲労のサインを見つけておくことも非常に有効です。
疲労が限界までたまってしまう前に、「そろそろ休まないとまずい」と気づくためのサインを自分で整理しておきましょう。たとえば以下のようなものです:
もし他人から見てもわかるサイン(表情が険しくなる、口数が減るなど)がある場合には、信頼できる人とそれを共有しておくと、声をかけてもらうきっかけになります。
ASDの方は、感覚の特性や過集中傾向により、自分の疲労状態を見落としやすく、それが時として重大な体調不良や精神的な問題へとつながることがあります。
「疲れに気づく力」は、トレーニングによってある程度身につけることができます。感覚ではなく客観的な数値で管理する、サインを言語化しておく、信頼できる他者と連携する——これらの方法を取り入れれば、日々の生活における疲労の蓄積を防ぎ、安定した生活を維持することができるでしょう。
自分の心と体の状態に耳を傾け、無理のないリズムで過ごすこと。それが、ASDの方にとっての「健康を守る第一歩」なのです。