私たちの誰もが、多少なりとも「こだわり」を持って生活していますよね。お気に入りのマグカップでコーヒーを飲んだり、決まった順番で朝の支度をしたり。それが心地よい習慣になっている人も多いと思います。
しかし、発達障害、特にASD(自閉スペクトラム症)を持つ方々にとっては、この「こだわり」がより深く、生活の中で大きな意味を持っていることがあります。
そしてそのこだわりは、時に本人の生きづらさにつながったり、周囲とのすれ違いを生んでしまうことも。
今回は、定型発達の人とASDの人の「こだわり」の違いに注目しながら、どんな種類のこだわりがあり、それがどんな理由で生じるのか、生活や仕事にどんな影響を与えるのかをわかりやすくお伝えします。

ASDの方によく見られるのが、「常同行動」や「反復行動」といった行動パターンです。たとえば、何の目的もなく同じ動作を繰り返す、特定のルートでしか通勤できない、特定の言葉を何度も繰り返すなどがそれにあたります。
このような行動は、不安や緊張の高まり、あるいは感覚の鈍さ(鈍麻)に対処する手段として現れることがあります。また、自分の意思に反して「やりたくないこと」を無理やりさせられている時にも、ストレス緩和の手段として常同行動が出ることがあります。
ASDの方にとって、「いつもと同じ」であることは非常に大切です。たとえば、電車の乗る場所が毎回同じ、毎朝同じルートで通勤、特定の食器でしか食事ができないなど。
この「同じであること」に安心感を覚え、逆に突然の変更や予測不能な状況に対しては、強い恐怖やパニックを感じることもあります。
引っ越しや転職など、大きな環境の変化が同時に起こることは、本人にとっては非常に大きなストレスとなります。そのため、変化はできるだけ小刻みに、一つひとつ慣れてから次の段階へ進むことが推奨されます。
バスの時刻表をすべて覚えてしまうほどの強い興味を持つこともあれば、逆に興味のないことにはまったく関心を持てないというのもASDの方によく見られる特徴です。
この強いこだわりは、ときに「特技」や「専門性」として社会的に評価されることもあります。一方で、関心のない仕事や場面ではまったくモチベーションが持てず、うまく対応できないことも多いです。
合理性を重視する方も多く、「必要かどうか」「意味があるかどうか」で判断するため、感情や空気を読むような対応は苦手な場合があります。

味や匂い、音や光、服の素材など、五感のうちいずれか、または複数が非常に敏感であることがあります。これは「感覚過敏」と呼ばれ、生活に支障をきたすことも。
たとえば、特定の食感が苦手で偏食が強く出る、香水や洗剤のにおいで気分が悪くなる、少しの物音で集中が切れてしまう、など。
周囲がこの感覚特性を理解して配慮することで、本人にとっての生活のしやすさが格段に上がる可能性があります。
定型発達の方にももちろん「こだわり」はあります。ただし、多くの場合、そのこだわりは柔軟性があり、生活や仕事に著しい支障をきたすほどではありません。
たとえば、定型発達の方がファッションや趣味にこだわるとき、それは「他者の評価」や「流行」を意識していることが多く、TPOに合わせて柔軟に変えることができます。
一方で、ASDの方のこだわりは「自分の感情」や「快・不快の感覚」に根差しており、たとえ他人にどう思われようと、自分が納得できるかどうかが基準となります。
このように、ASDのこだわりが強すぎると、周囲との摩擦が生じたり、本人自身がストレスを感じやすくなることがあります。

こだわり自体は決して悪いものではありません。むしろ、自分らしく生きるために必要な「軸」とも言えます。
ただし、そのこだわりによって生活や仕事に支障が出ている場合は、「なぜそのこだわりがあるのか」「どうすれば少し緩められるか」を見つめ直すことが大切です。
こだわりは、時に自分を守る「盾」であり、自分らしさを支える「柱」でもあります。でもそのこだわりが、少しだけ柔らかくなれば、人とのつながりや新しい体験がもっと心地よくなるかもしれません。
自分の特性と向き合いながら、ちょっとした工夫や他人の手を借りて、少しずつ過ごしやすい日常を築いていきましょう。