部下を育成するうえで「叱ること」は避けては通れない場面のひとつです。しかし、叱ることとパワーハラスメント(パワハラ)の違いが曖昧なままだと、知らず知らずのうちに信頼関係を損ない、職場の雰囲気を悪化させてしまう可能性もあります。
本記事では、部下の成長を促すための叱り方のルールを5つに分けて解説し、さらに具体的な伝え方の例文もご紹介します。叱ることに自信がない方や、つい感情的になってしまうという方にこそ参考にしていただきたい内容です。

まず大前提として、「叱ること」と「パワハラ」は全く異なるものです。パワハラとは、自分の地位や立場を利用して、相手に対して不適切な言動を取る行為を指します。たとえば、以下のような言動はすべてパワハラに該当します。
一方で「叱る」とは、部下の問題行動やミスに対して建設的なフィードバックを与え、成長を促す行為です。感情的な怒りではなく、愛情や期待をもって伝えることが前提になります。
とはいえ、意図がどうであれ、相手に「責められている」「否定された」と感じさせてしまう叱り方では、叱る本来の目的は果たせません。そのためには、以下の5つのルールを意識することが大切です。

叱るときに感情をぶつけてしまうと、相手は萎縮してしまい、本質的な改善にはつながりません。まずは感情を落ち着け、具体的な事実にもとづいて冷静に伝えることが重要です。
NG例:
「会議で人が話してるのに、態度が悪いぞ!」
このように抽象的で感情的な指摘をされると、相手は反発を覚えることがあります。
OK例:
「さっきの会議で、○○さんが話しているときにスマホを見ていたね。会議中は相手の話をしっかり聞こう。」
このように、具体的な行動(スマホを見ていた)を明示し、改善点をプラスの表現で伝えることで、相手の納得感が生まれます。

叱る目的は「部下の成長」であることを忘れてはいけません。感情に任せて相手を責めるような言い方では、やる気を失わせてしまうだけです。
NG例:
「こんなミス、社会人としてあり得ない!」
これは相手の人格否定に近く、叱る目的を果たせていません。
OK例:
「今回のミスは、今のうちに修正すれば必ず成長につながるよ。次に活かしていこう。」
このように「成長」や「改善」という前向きなキーワードを使うことで、叱られる側も前向きに受け止めやすくなります。

叱るタイミングは、できるだけ問題が起きた直後が望ましいです。時間が経つと記憶も曖昧になり、効果が薄れます。
また、人前で叱るのは極力避けるべきです。他の社員の前で叱責されると、恥をかいたと感じてしまい、やる気や信頼関係が一気に損なわれます。なるべく個別に呼び出し、落ち着いた雰囲気の中で伝えるようにしましょう。

叱ることは「ダメ出し」で終わらせるものではありません。大切なのは、これからどう改善していくかを一緒に考えることです。
ここでポイントになるのは、「まずは部下に考えさせる」こと。上司がすぐに答えを言ってしまうと、部下は自ら考える力を育てることができません。
NG例:
「何度も同じミスをするな!」
OK例:
「次に同じミスを防ぐために、どんな工夫ができると思う?」
このように問いかけながら、部下自身に改善策を導き出させ、そのうえで必要があれば補足アドバイスを加えると効果的です。

叱ったあとのフォローは非常に重要です。叱られたあとに放置されると、「嫌われたのでは?」「信頼されていないのかも」と不安を抱く部下もいます。
叱ったあとに声をかける、仕事ぶりをさりげなく褒める、小さな変化にも気づいてあげるなど、フォローによって信頼関係はさらに強くなります。
以下に、部下に対して伝えやすい具体的な叱り方フレーズを2つご紹介します。
「○○さんは、いつも迅速に対応してくれるところが素晴らしいね。
そのスピードに、もう少し丁寧さが加わると、さらに良くなると思うよ。」
このようにまずは相手の長所を認めたうえで改善点を伝えることで、否定的な印象を与えずにアドバイスすることができます。
「新しい仕事は不安もあるよね。でも、僕もフォローするから、まずはやってみよう。
うまくいかなかったら、そのときは一緒に別の方法を考えよう。」
挑戦への不安を受け止めつつ、前向きな姿勢を促すこのような伝え方は、部下の意欲を引き出すのに効果的です。
叱ることは決して悪いことではなく、むしろ部下を思うからこその行為です。ただし、伝え方を間違えると、その善意もパワハラとして誤解されてしまうリスクがあります。
重要なのは、「事実にもとづき、冷静に、目的を持って伝える」こと。感情的にならず、前向きな言葉を選び、叱った後のフォローまで丁寧に行えば、部下の信頼と成長につながる良い叱り方になります。
一人ひとりの部下に合わせた声かけを意識して、育成力のある上司を目指していきましょう。