カスタマーハラスメントの背景と対応策

~従業員を守るために企業が取るべき行動とは~

近年、「カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)」という言葉が社会で広く知られるようになってきました。特にサービス業や接客業を中心とした企業からは、「従業員がカスハラに疲弊している」「カスハラ対応の研修を実施してほしい」といった声が増えています。本記事では、カスハラとは何かという基本的な理解から、なぜその件数が増えているのか、さらには企業として取り組むべき具体的な対応策について丁寧に解説していきます。


カスタマーハラスメントとは何か

カスタマーハラスメントとは、顧客が企業の従業員に対して行う過剰または不適切な言動によって、従業員に精神的・肉体的苦痛を与える行為のことを指します。略して「カスハラ」とも呼ばれます。

たとえば以下のようなケースが該当します:

  • 過剰で理不尽なクレーム
  • 暴言や差別的発言
  • 威圧的な態度
  • 長時間にわたる拘束や謝罪の強要
  • SNSや口コミサイトでの執拗な批判や誹謗中傷

ある企業では、店長から現場スタッフまでが一人の顧客によるカスハラ対応に疲弊し、職場全体の士気が下がってしまったという事例もあります。こうした事態が放置されると、従業員のメンタルヘルスの悪化や離職、業務効率の低下、さらには企業全体の信用失墜にもつながりかねません。


なぜカスハラは増えているのか? 3つの背景要因

カスハラが近年増加傾向にある背景には、社会全体の変化が関係しています。特に以下の3点が要因として指摘されています。

1. 「お客様は神様」思想の誤解

1. 「お客様は神様」思想の誤解

かつて日本では「お客様は神様です」というフレーズが流行しました。これは1960年代に活躍した歌手・三波春夫氏の発言が元となっています。しかし、本来は「舞台に立つ際には観客(=お客様)に最大限の敬意を持って歌う」という意味であり、顧客が絶対的な存在であるという意味ではありませんでした。

それにもかかわらず、「お金を払っているのだから何を言ってもよい」「店員は顧客に従うべきだ」といった誤解が広まり、一部の顧客が不当な言動を正当化してしまうようになったのです。

2. 社会全体のストレス増加

現代社会は経済的不安、働き方の多様化、孤独感の増加など、多くの人がストレスを抱えやすい環境となっています。そのストレスのはけ口として、立場の弱い接客業従業員に怒りや不満をぶつけてしまうという行動が見られるようになりました。

3. インターネットの普及

3. インターネットの普及

SNSや口コミサイトの普及により、個人の声が簡単に拡散される時代になりました。これにより、一部の顧客が「ネットに書くぞ」と企業を脅したり、過剰な要求を突きつけたりするケースが増えています。企業としては悪評を避けたいあまり、顧客の不当な要求に応じてしまうという悪循環に陥ってしまうこともあります。


カスハラへの対応方針:従業員の安全と顧客満足の両立

カスハラに対応する際、最も大切なのは「顧客満足」と「従業員の安全・尊厳」のバランスをとることです。従業員が安心して働ける環境があってこそ、良質な顧客サービスが提供されます。

顧客はもちろん大切な存在ですが、あくまでも対等な関係であるべきです。顧客の理不尽な要求に従業員が我慢を強いられるような風潮は、結果として企業文化を損ない、優秀な人材の離職にもつながりかねません。

したがって、企業は「従業員を守ること」を明確に方針として打ち出し、全社的に取り組むことが求められます。


カスハラへの基本的な5つの対応策

それでは、現場で役立つ具体的な対応策を5つご紹介します。

1. 冷静さを保つ

カスハラに直面すると、怒鳴られたり威圧されたりして思わず感情的になってしまうことがあります。しかし、感情で応じてしまうと状況は悪化する一方です。深呼吸をして冷静さを保ち、落ち着いた対応を心がけましょう。

2. 状況を記録する

カスハラが発生した場合には、発生日時、内容、場所、相手の言動などを詳細に記録しておくことが重要です。これは上司や人事部門への報告、さらには法的措置を検討する際の証拠として非常に有効です。

3. 応じられない要求は断る

不当な要求や暴言に対しては、丁寧かつ毅然とした態度で断ることが大切です。「申し訳ございませんが、そのご要望にはお応えいたしかねます」といった表現で、相手の要求にすべて応じる必要はないという姿勢を明確にしましょう。

4. 組織で対応する

カスハラは決して個人で対処すべき問題ではありません。現場の従業員が第一対応者になった場合は、速やかに上司や専門部署へ報告し、組織全体で対応する体制を整えることが必要です。一部の企業では、カスハラ発生時の報告義務をルールとして明文化しています。

5. 対応の中断・終了も選択肢

5. 対応の中断・終了も選択肢

理不尽な言動が長時間にわたる場合は、「これ以上の対応は業務に支障をきたす」と判断し、適切なタイミングで対応を打ち切ることも検討すべきです。「大変申し訳ございませんが、これ以上のご対応は致しかねます」といった表現で、必要に応じて終了を宣言する勇気も必要です。


まとめ:カスハラ対策は組織全体で取り組むべき課題

カスハラへの対応は、現場スタッフだけに任せるべきではありません。組織としての明確な方針、対応マニュアル、そして教育体制が不可欠です。また、万が一に備えて、従業員一人ひとりが対応のポイントを理解しておくことも大切です。

従業員が安心して働ける職場環境を整えることで、結果的に顧客満足度も向上します。顧客と良好な関係を築くためにも、企業はカスハラ対策を重要な経営課題の一つとして捉え、持続的な取り組みを進めていくことが求められます。