
かつての日本の組織におけるリーダーといえば、「命令する側」「従わせる側」というイメージが強くありました。いわゆるトップダウン型のリーダーシップが主流だった時代です。しかし、現代では価値観も多様化し、従来の「支配型リーダー」では部下や若手社員の信頼を得ることが難しくなっています。
時代の変化とともに、リーダーに求められる役割も大きく変わりつつあります。今、求められているのは、メンバーの成長を支援し、信頼を土台に影響力を発揮する「支援型リーダーシップ」、とりわけ「サーバントリーダーシップ」と呼ばれるスタイルです。

経営学者ピーター・ドラッカーは、「リーダーシップに必要なのはカリスマ性ではなく人格である」と語っています。つまり、誰かを引っ張っていく資質は、生まれつきの才能ではなく、日々の行動や姿勢の積み重ねによって磨かれる「人間力」によって築かれていくものだとしています。
また彼は「リーダーシップは資質ではなく仕事である」とも述べています。リーダーは特別な能力を持った人がやるものではなく、組織やチームの中で役割を果たす「働き方」であるということです。
この考え方を体現するスタイルのひとつが「サーバントリーダーシップ」です。

サーバント(servant)とは「奉仕する人」という意味です。つまり、サーバントリーダーシップとは、「リーダーはまず部下やメンバーに奉仕し、支援することから始まる」という哲学に基づいたリーダーシップのあり方です。
この考え方の根本には、「信頼されるリーダーこそが真のリーダーである」という前提があります。信頼とは一朝一夕で得られるものではありません。日々の行動の積み重ねによって、部下やメンバーから「この人のために頑張ろう」と思ってもらえるようになるのです。

リーダーシップとは「影響力」であると言われますが、その影響力がどこから生まれるかによって、スタイルが異なります。
支配型のリーダーは、命令や指示を出して動かすスタイルです。そのため、部下は「言われたことだけをこなす」ようになりがちで、受動的・指示待ちの姿勢に陥りやすくなります。
一方、サーバントリーダーシップを実践することで、部下は「自分で考え、自分で動く」主体的な姿勢が育ちます。信頼に基づいたリーダーシップは、部下の自立と成長を引き出すことが可能になります。
もちろんサーバントリーダーシップにもデメリットはあります。部下の意見を尊重するがゆえに、意思決定に時間がかかる場面もありますし、明確な指示を求めているタイプの部下には合わない場合もあります。しかし、長期的に見れば、部下の成長と組織全体の自走力を高めるという点で、非常に有効なスタイルといえるでしょう。

それでは、具体的にサーバントリーダーシップを実践するにはどのような姿勢が求められるのでしょうか。以下に、ロバート・K・グリーンリーフが提唱したサーバントリーダーシップの10の特性をご紹介します。
まずは、相手の話をしっかり聴くこと。部下の話に耳を傾けることで、相手の思いや状況を正しく理解できます。「この人は自分の話を聞いてくれる」と感じてもらえることで、信頼関係の第一歩が築かれます。
部下の立場に立って物事を考えること。自分の価値観だけで判断せず、相手の背景や考えを尊重する姿勢が求められます。
部下が悩んでいるときや落ち込んでいるときには、そっと寄り添い、声をかけるなどの精神的サポートを提供します。リーダー自身が安心感を与える存在であることが重要です。
自分自身やチームの状態について、常に意識を向けていること。部下から得られる「気づき」に敏感になることが、的確な判断につながります。
命令や押し付けではなく、対話を通じて部下と合意形成を行います。納得感のある意思決定を通じて、より強い信頼関係が生まれます。
組織のビジョンや目標を部下にわかりやすく示す力。チームの方向性を明確にすることで、個々の行動に意味と目的が生まれます。
未来を見据える力。過去と現在の状況を踏まえて、将来のリスクやチャンスを見極め、チームを正しい方向へ導きます。
リーダーはあくまでチーム全体の成長を見守る「裏方」であるという姿勢。一歩引いた立ち位置から、メンバーの成功を支援します。
部下一人ひとりの可能性を信じて、その成長を後押しします。強みを見出し、それを活かせる機会を提供することで、本人のモチベーションも高まります。
職場を「ただの仕事の場」にせず、助け合いや信頼が育まれる温かいコミュニティにすることを意識します。リーダーが「なぜ支援するのか」という背景を丁寧に伝えることも、信頼関係構築に役立ちます。
リーダーとは、部下を支配する人ではありません。現代の組織では、「与えることで信頼される」支援型リーダーが求められています。
部下の成長を本気で願い、信頼関係を築く姿勢が、結果としてリーダーとしての影響力を強めていくのです。
リーダーシップに正解はありませんが、「相手を支えることを通じて結果を出す」このサーバントリーダーシップの考え方は、これからの時代において非常に大きなヒントになるでしょう。