― 新人教育担当者様へ ―
近年、働き方や価値観が多様化する中で、「多様性(ダイバーシティ)」の重要性が叫ばれるようになってきました。年齢や性別、経歴、文化的背景に加え、仕事への向き合い方や価値観にも幅がある現代の職場では、それぞれの個性を尊重しながらも、組織として成果を上げる必要があります。
しかし、「多様性を認めること」と「わがままを許容すること」を混同してしまうケースも少なくありません。とくに新入社員や若手社員にとっては、「自分らしさを大切にすること」と「職場のルールを守ること」のバランスを取るのが難しい場面もあるでしょう。
本稿では、新人教育担当者様に向けて、「多様性」と「わがまま」の違いについて具体的に解説し、どのように指導・支援を行っていくべきかのヒントをお伝えします。

職場における多様性とは、年齢、性別、経験、価値観などの違いをお互いに尊重し合い、認め合うことを意味します。単に「いろいろな人がいる」という状態だけでなく、それぞれの違いが活かされ、協働する中で組織の生産性や創造性が高まることを目的としています。
経済産業省が提唱している「社会人基礎力」においても、異なる価値観を持つ他者と協働し、より良い成果を生む力は重要な素養と位置づけられています。つまり、職場での多様性とは、単なる個性の表現にとどまらず、組織の成長や利益の創出につながる前向きな力なのです。

多様性を尊重する目的は、組織内の一人ひとりが持つ能力や強みを最大限に発揮できる環境を整えることです。異なる視点が交わることで、新しいアイデアが生まれたり、柔軟な対応が可能になったりします。
たとえば、年齢層の違うメンバーがチームにいる場合、若手社員がデジタルやSNSに強い一方で、ベテラン社員は顧客との信頼構築や調整力に長けているといった具合に、補完関係が生まれることもあります。
ただし、その多様性が活かされるためには、一定のルールやマナーのもとで相互理解と協力が前提となることを忘れてはいけません。
多様性を職場に根付かせるには、単に「自由に振る舞ってよい」と受け取られないように配慮する必要があります。とくに新人社員に対しては、「多様性を尊重すること」と「組織人として責任を持って行動すること」の両立が求められることを丁寧に伝える必要があります。
**組織としての最低限のルールを設け、その中で個性を発揮してもらうことが、働きやすい職場環境の維持につながります。**たとえば、服装や髪型、勤務態度などに関するルールがある場合、それに従ったうえで個性を表現するという姿勢が求められます。
多様性とわがままは、似ているようで本質的に異なります。多様性は他者への配慮と共存を前提とした「調和」ですが、わがままは自己中心的な「自己優先」です。
新人教育の現場でも、以下のような場面では注意が必要です。

たとえば、「自分の意見を率直に伝えるのが自分らしさだ」として、相手への配慮を欠いたストレートな物言いをする人がいます。このような行動は「多様性」ではなく「無配慮な自己主張」であり、周囲の人間関係や職場の雰囲気に悪影響を及ぼしかねません。
多様性とは、自分の意見を持ち、それを相手を思いやる言葉で伝えられる力のことです。相手の立場や受け取り方に心を配りながら、自分の考えを表現する姿勢が求められます。

「プライベートの時間を大事にしたい」という思いは大切ですが、「だから新しい仕事は引き受けない」「自分の都合で遅刻や早退を繰り返す」といった行動は、多様性ではなく、わがままです。
個人の自由が組織全体にとってマイナスとなる場合、それは見過ごせません。会社は業務への貢献に対して給与を支払っています。組織の一員としての責任を果たしたうえで、個性やライフスタイルを尊重されるというのが、真の多様性です。

たとえば、「自分らしさを表現したいので茶髪にしたい」と思う人がいたとします。会社のルールで茶髪が禁止されている場合、本来であれば業務中はルールに従い、長期休暇などのプライベートな時間にだけ楽しむという選択が、妥協点となるでしょう。
ところが、「会社のルールなんて関係ない。自分のスタイルを貫く」となると、それはわがままであり、組織内の信頼を損なう行為にもなりかねません。
新人教育担当者としての関わり方
新人教育を担う立場としては、単にルールを守らせるだけでなく、「なぜそのルールがあるのか」「その中でどこまで多様性が許容されるのか」という背景を丁寧に説明することが大切です。
また、以下のような視点を持って関わると、指導がより実りあるものになります。

「多様性」とは、個々人が自分の特性を生かしつつ、組織のルールや他者への配慮を忘れないことが前提となります。一方で、「わがまま」は、自分の利益や都合だけを優先し、組織や他者への影響を考えない行動です。
新人教育担当者としては、この違いを丁寧に伝えながら、社員一人ひとりが「自分らしさ」と「組織の一員としての責任」を両立できるようにサポートしていくことが求められます。
多様性のある職場は、工夫と協力によって、より豊かで創造的な環境へと進化していきます。その土台づくりこそが、新人教育の大きな役割といえるでしょう。