現代のビジネスシーンや日常生活において、コミュニケーションのすれ違いによるトラブルは決して少なくありません。その中でも特に大きな原因となっているのが「曖昧な言葉」の使用です。つい無意識に使ってしまう曖昧な言葉ですが、実は相手に正しく伝わらず、さまざまなトラブルを招いてしまうことが多いのです。本記事では、曖昧な言葉が生む問題、その具体的な事例、そして解決策について、具体例を交えて丁寧に解説します。
あなたは、自分が伝えたはずのことが、相手にうまく伝わっていなかった、という経験はありませんか。多くの場合、その原因の一つが「曖昧な言葉」の使用です。私はこれまで、研修講師として多くの現場に立ち会ってきましたが、特に上司が部下に指示を出す場面で曖昧な言葉が使われ、思わぬ誤解やミスを招くケースを数多く見てきました。
仕事において、考えていることを正確に伝えることは生産性向上や信頼醸成のうえで不可欠です。しかし「たくさん」「早めに」「多めに」といった言葉は、人によって受け取り方が変わります。結果として、双方の認識にズレが生じ、何度もやり直しが発生したり、最悪の場合は関係性の悪化につながったりするのです。

それでは、実際に曖昧な言葉が原因で起こった上司と部下のトラブル事例を紹介しましょう。
【事例1:多めの領収書】
上司:「鈴木くん、今度の懇親会用に領収書を多めに作っておいてもらえますか?」
部下:「部長、承知しました。多めに作っておきます。」
懇親会当日——
部下:「部長、多めに作っておきました。どうぞ。」
上司:「ありがとう。……え、3枚?多めって言ったよね?」
上司は「多め」といえば10枚程度をイメージしていましたが、部下は3枚が「多め」だと考えて準備していました。このように「多め」という曖昧な言葉が双方で異なる解釈を生み、結果として7枚分の差が発生してしまいました。このようなズレは、仕事のやり直しや無駄な時間を生む根本原因となります。

では、こうしたトラブルを防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。最も有効なのは、「具体的な数字で示す」ことです。
例えば、先ほどの領収書の例では「10枚作ってください」と明確に数字で伝える。それだけで誤解は避けられます。また、「企画書をなるべく早くお願いします」も曖昧ですが、「10月27日金曜日18時までにお願いします」と期限を明示することで、相手も迷うことなく動くことができます。
時間に関する表現も同様です。「少し遅れます」ではなく「10分ほど遅れます」と具体的に伝える。こうした小さな工夫が、仕事の効率と信頼関係を大きく向上させるポイントになります。
曖昧な言葉は形容詞や抽象語にも潜んでいます。例えば「大きい」「小さい」「高い」「安い」「広い」「狭い」などは、人によって基準が異なります。
私自身も、独立したてのころに「後日メールを送ります」とお客様に伝えたことがありました。しかし、私は「後日」を3日後と考えていたのに、お客様は「翌日」を期待されていたため「遅い」とお叱りを受けた経験があります。たった一言の曖昧さが、相手に不快な思いをさせたり、信頼を失ったりする原因となることを、身をもって痛感しました。

曖昧な言葉が引き起こすのは、仕事のやり直しだけではありません。ときには大切な人間関係そのものの悪化にもつながります。
【事例2:チラシ制作の依頼】
あるお客様が、営業担当者にチラシ制作を依頼しました。
営業:「今回は春ですから、爽やかなチラシにしませんか?」
顧客:「いいですね。やっぱり4月だから、爽やかなのにしましょう。」
実際に完成したチラシを見て、顧客は「ありがとう。でも……これって“爽やか”?」と感じてしまいました。営業担当者の思う「爽やか」と、顧客がイメージする「爽やか」の間にズレがあったのです。しかし、スケジュールの都合でそのままチラシを折り込みせざるをえず、結果も思わしくありませんでした。曖昧な言葉が、最終的には満足度や信頼関係を弱めてしまうのです。
こういった“イメージのズレ”を防ぐために有効なのが、「言葉+視覚情報」で伝える方法です。
例えば「この棚の書類をきれいにしてください」という場合、「きれい」のイメージは人それぞれ。事前に写真などで「これくらいの状態にしてください」と例示することで、具体的なイメージを共有できます。同様に「古い家を探しています」という時も、自分が考える「古い家」の写真を見せて、視覚的に示しましょう。
形容詞での指示は特に誤解が生じやすいものです。「可愛い」「美しい」「深い」「面白い」なども、相手の受け取り方次第で大きく意味が異なります。言葉だけでなく、必ず目で見える情報をプラスし、丁寧にすり合わせすることが重要です。

曖昧な言葉は、使っている本人はその曖昧さに気付いていないことも多く、「言ったのになぜ伝わらないのだろう」と悩むことがあります。一方で受け手も「言われた通りにしたのに」と感じ、両者にモヤモヤや不満が残ってしまいます。これが、人間関係をギクシャクさせる大きな要因となるのです。
人にきちんと伝えるためには、
この2つを徹底することが大切です。曖昧な言葉の使用は、仕事や信頼関係に大きな支障をきたす恐れがあります。とはいえ、今すぐ全ての曖昧語をなくすのは難しいかもしれません。しかし「また曖昧に言ってしまった」と気付くことができれば、それだけでも大きな前進です。
曖昧語を極力使わず、具体的かつ丁寧に伝えることを心がけることで、仕事の生産性向上にも、信頼構築にもつながります。ぜひ、日常のコミュニケーションから意識してみてください。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。