「ビジネスマナーって、正直くだらない」「気持ち悪いし、面倒くさい」
そんな声を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。もしかすると、あなた自身もそう感じたことがあるかもしれません。実は、ビジネスマナー研修の講師をしている私も、かつては同じように「マナー=堅苦しいもの」「型にはまった、窮屈なもの」といった印象を持っていました。
しかし今では、ビジネスマナーこそが人間関係を円滑にし、社会生活の中で大きな力になる「コミュニケーションの土台」だと確信しています。本記事では、「ビジネスマナーなんてくだらない」と感じる理由に共感しつつ、その本質と本当に必要なマナー、そして時代にそぐわない“マナーの形骸化”にも触れていきます。

まずは、ビジネスマナーの前提となる「マナー」と「ルール」の違いについて整理しておきましょう。
ルールは絶対に守るべき規範ですが、マナーは罰則こそないものの、守らないことで相手との人間関係が悪くなる可能性があります。
例えば、車の運転に例えると、「赤信号では止まる」はルール、「急停車をする時にハザードランプを点灯させる」はマナーです。特に高速道路の走行時にいきなりブレーキをかけて減速すると、罰金こそありませんが、多くの人が「配慮がない」と感じるのではないでしょうか。
職場でも同じです。時間通りに出社するのはルールですが、「おはようございます」と挨拶を交わすのはマナーです。挨拶を無視された側は、不快な気持ちになり、「何か悪いことをしたのかな…」と不安になりますよね。
このように、マナーは相手を不快にさせないための“気づかい”であり、だからこそどんな業種・職場でも必要不可欠なのです。

大切なのは、マナーはあくまで“相手を思いやる気持ち”の表れであって、型や形式を押しつけるものではないということです。
時代、文化、職場の雰囲気、相手の立場によっても“正解のマナー”は変わります。すべてのマナーが普遍的に正しいというわけではありません。例えば、研修で習ったマナーがそのまま現場で適応できるとは限らず、時にはかえって相手の負担になることもあります。
■「見えなくなるまでお見送り」は本当に必要?
営業職をしていた頃、商談後にお客様が玄関先から外まで出てきてお見送りをしてくださる場面がよくありました。一見ありがたいことのように見えますが、いざ帰ろうとすると、車に乗ってシートベルトを締め、カーナビを設定して…と、すぐに出発できるわけではありません。その間、お客様がずっと立って待っていてくださるのは、逆に申し訳なく思ってしまうのです。
そこで私は、自分がお見送りをする際には「お車までお気をつけて」と玄関口でお声がけをして、無理に外まで出ず、相手に負担をかけないよう配慮するようになりました。
マナーの本質とは、形式を守ることではなく、相手の気持ちを考えること。時には「型」よりも「柔軟さ」が求められます。

ビジネスマナーの多くは、意味のある「思いやりの形」です。しかし中には、「これは本当に必要?」と思わず疑問に感じるようなものも存在します。
■ラベルを上に向けてビールを注ぐ?
ある会社の宴席で、部下が上司にビールを注ぐ際、ラベルを上に向けていなかったことを理由に叱られたという話を聞いたことがあります。もともとワインの注ぎ方に由来したものであって、ビールを注ぐ時にまでそれを当てはめるのは少々無理があるように思えます。
■お茶は「どうぞ」と言われるまで飲んではいけない?
お客様先でお茶を出された際、「どうぞ」と言われるまで口をつけてはいけないというマナーもあります。しかし、温かいお茶が冷めてしまい、出してくださった方にも気を遣わせてしまうような状況では、そのマナーは本末転倒ではないでしょうか?
このように、“誰のためのマナーなのか”が見えなくなると、形式ばかりが残って「くだらない」「気分が悪い」と感じられてしまうのです。
マナーを語る際に忘れてはいけないのは、「なぜそれをするのか?」という目的と意味を考えることです。
例えば、名刺交換の際、相手の名刺をすぐにしまわず、机の上に置いておくのは「相手に関心を示す」ため。無言で受け取るよりも、「頂戴します」と一言添えることで「あなたを大切に思っています」という気持ちが伝わります。
マナーができていないからといって、その人を責める必要はありません。知識として伝えてあげれば良いのです。マナーは「スキル」であり、誰でも身につけることができます。
「ビジネスマナーはくだらない」と感じる背景には、意味を持たない形式の押し付けや、目的の見えないルールのような“型”があるのだと思います。しかし、本質を理解し、目的を持って行動するマナーは、何よりも人間関係を良好にする力を持っています。
マナーを通じて相手を尊重し、相手からも尊重される関係を築く。そうしたコミュニケーションの土台として、ビジネスマナーを「くだらないもの」ではなく「役立つもの」として見直してみませんか?