
研修やセミナーの場で交わされる質問の多くは、前向きで建設的なものです。しかし、中には講師を困らせるような否定的な質問を投げかける受講者もいます。こうした質問にどう対応するかは、講師の力量や人間性を測る重要な場面と言えるでしょう。ここでは、私自身の経験をもとに、否定的な質問に対する心構えと具体的な対応法を整理します。これから研修を行う方、あるいは現在研修の場に立っている方にとって、少しでも参考になれば幸いです。
講師として活動を始めたばかりの頃、私は否定的な質問を受けて強く動揺しました。「そんな質問をする人がいるのか」と驚き、なんとか冷静さを装いながら答えたものの、内心は大きく揺れていたのを覚えています。
経験を積むうちに、一定数そうした受講者が必ず存在することを理解しました。中には、講師を試すような質問をする人、揚げ足を取ることを目的としている人もいます。ある講師仲間は、心構えのないまま厳しい質問を受け、精神的に追い詰められて講師業を離れてしまいました。これは特別な話ではなく、ベテラン講師でも遭遇することです。
例えば、配布資料の漢字間違いを大勢の前で指摘されることがあります。「何ページ目の何行目の文字が違っています」とわざわざ声を上げる背景には、講師に恥をかかせたいという心理が隠れている場合もあります。このような時、「申し訳ございません。ご指摘ありがとうございます。修正いたします」と冷静に返すことが大切です。同時に、「この人は何らかの不満を抱えているのだろう」と理解しておくと、必要以上に落ち込まずに済みます。
否定的な質問が感情的な口調で投げかけられると、思わず表情や態度に動揺が表れてしまうことがあります。しかし、その様子は他の受講者にも伝わってしまいます。こうした時こそ、冷静さと堂々とした態度が求められます。
講師は、否定的な意見も真摯に受け止める姿勢を持つことが重要です。その対応を見た受講者は、「この講師は信頼できる」と評価してくれます。つまり、自信を持って対応することは、研修全体の雰囲気や講師としての評価にも直結するのです。

否定的な質問に対しては、相手の意見を否定せず、肯定的な要素を取り入れて返すのが効果的です。私が行ったコミュニケーション研修での出来事を例に挙げます。
研修中、私は「ポジティブに捉えることの大切さ」を繰り返しお伝えしていました。すると、30代の女性受講者が「私はネガティブで良いと思うんですけど、ネガティブだったら悪いんですか?」とやや怒りを含んだ口調で質問してきました。
この時、私はまず「ご質問ありがとうございます」と感謝の言葉を伝えました。次に、「そうですよね、私にもネガティブな部分はあります。おそらくここにいらっしゃる皆さんも同じだと思います」と、相手の考えを認めました。そして、「ネガティブな感情自体は悪くありません。ただ、そればかりに囚われてしまうと、自分が疲れてしまい、仕事も楽しくなくなります。少しずつポジティブに変換できると、日々がもっと楽しくなりますよ」と、自分の意見も丁寧に伝えました。
最後に「新しい視点をいただき、私自身も勉強になりました。ありがとうございます」と感謝を重ねることで、対立ではなく理解と共有の形で会話を終えることができました。この経験から、同様の場面では「ネガティブは悪いことではない」という一言を加えるようになり、その後同じ質問はほとんど出なくなりました。
否定的な質問は、必ずしも講師個人への攻撃ではありません。その背景には、質問者自身の仕事や家庭での不満、ストレスなどが影響している場合があります。つまり、その矛先がたまたま研修の場で講師に向いただけ、ということも多いのです。
だからこそ、必要以上に自分を責める必要はありません。「自分は講師に向いていないのでは」と落ち込むのではなく、貴重なフィードバックとして受け止め、スキル向上の材料にしましょう。
私自身、過去には心が沈むこともありましたが、振り返ってみれば、そうした場面からこそ受講者の本音や考え方を知ることができました。その経験は確実に講師としての幅を広げてくれています。

否定的な質問は避けられないものですが、それをどう受け止め、どう返すかで講師としての評価は大きく変わります。
これらを意識することで、否定的な質問はむしろ講師としての成長を促す機会となります。前向きに捉え、次の研修に活かす姿勢こそが、受講者から信頼される講師への道です。