企業活動において、クレーム(苦情)がまったく発生しないということは、ほとんどありません。同様に、社会人として一度もクレームを受けた経験がないという人も、まずいないでしょう。仕事の中でクレームは避けられないものであり、多くの人にとって好ましい経験ではありません。むしろ辛く、できれば減らしたいと感じるのが本音です。
その中で出会ったのが、「グッドマンの法則」という考え方です。これは業界や業種を問わず、クレーム対応を見直すうえで非常に有効な知見を与えてくれるものです。本稿では、クレームの基礎知識としてこの法則を解説し、ピンチをチャンスに変えて顧客満足度を高めるための考え方をご紹介します。

「グッドマンの法則」は、アメリカの大企業で行われた苦情処理に関する調査結果をもとに、グッドマン氏が導き出したものです。その後、日本の佐藤氏が、この調査データの中に再購入率に関する一定の法則性を見出しました。
結論から言えば、クレーム対応の適切さは顧客満足度と再購入率に直結します。グッドマン氏は「苦情は宝物である」と述べています。嫌なもの、面倒なものと捉えられがちなクレームですが、適切に扱えば企業の成長に欠かせない貴重な情報源になるのです。
この法則は以下の3つから構成されています。
第一法則 ― 苦情対応と再購入率
第一法則はこう述べています。
不満を企業に伝えた顧客のうち、対応に満足した顧客の再購入率は、不満を言わなかった顧客よりも高くなる。
調査によれば、商品やサービスに不満を持った顧客のうち、実際に企業へ苦情を伝えるのはわずか4%。残りの96%は何も言わずに離れていきます。この声を上げない顧客は「サイレントクレーマー」と呼ばれます。
そして、苦情を伝えた顧客でも、対応に不満が残った場合の再購入率は0%。一方で、迅速かつ誠意ある対応で「大変満足」と感じた顧客の再購入率は82%に達します。「満足」レベルでも54%、対応に不満足なら19%にとどまります。
さらに重要なのは、そもそも苦情を言わなかった顧客の再購入率がわずか9%にすぎないことです。つまり、クレームをきちんと受け止めて対応することは、顧客をつなぎとめる大きな鍵になるのです。
例として、飲食店で提供されたオムライスに小さな虫が付いていたとします。このとき「取り替えてほしい」と言う人は少数で、多くは何も言わずに食事を終え、次からはその店に行かなくなります。表面化したクレームの背後には、同様の経験をしながら沈黙して去っていった顧客が多数存在するのです。
第二法則 ― ネガティブ口コミの影響力
第二法則はこうです。
不満を感じた顧客の否定的な口コミは、好意的な口コミの2倍の影響力を持つ。
好意的な体験は平均して5人に共有されますが、否定的な体験は10人に伝えられると言われています。これはSNSが普及する以前のデータであり、現代ではその影響力はさらに大きくなっています。匿名性のあるSNSでは、直接は言えない不満も容易に発信され、サイレントクレーマーの声が可視化される場となっています。
耳の痛い意見でも、その中に改善のヒントや顧客満足度向上の鍵が隠されている場合があります。企業はこうした声に目を背けず、分析・改善に活かす姿勢が求められます。
第三法則 ― 情報提供と信頼構築
第三法則は次のように述べられます。
企業が顧客に適切な情報を提供すると、信頼関係が構築され、好意的な口コミが広がり、市場の拡大につながる。
情報を継続的に発信することでファンが増え、売上や市場規模が拡大します。本屋が手書きPOPで感想や見どころを伝えたり、酒蔵が製造工程や造り手の思いを発信したりする事例は、その好例です。
興味深いのは、マイナス情報を正直に共有することも信頼につながる点です。良いことだけでなく、課題や反省点も率直に伝えることで、「この会社は信頼できる」という印象を持たれ、ファンを増やす結果となります。

3つの法則の中で最も重要なのは、96%を占めるサイレントクレーマーの不満を顕在化させることです。そのためには、相談窓口や問い合わせフォームの設置、店頭アンケート、営業後のフォローアンケートなど、多様な方法で顧客の本音を引き出す工夫が必要です。
実例として、ユニクロは「ユニクロの悪口を100万円で募集」という企画を行い、約1万人からの意見を収集しました。その中には、自社が気付かなかった改善点が多数含まれており、それを商品開発やサービス改善に活かしました。例えば、男性用インナー「エアリズム」のベージュ色は、「白だとシャツに透ける」という顧客の声から生まれ、大ヒット商品となりました。

クレームは企業にとって負担に感じられる一方で、適切に対応すれば顧客満足度と再購入率を向上させる「宝物」でもあります。特に、声を上げない大多数のサイレントクレーマーの意見をどう引き出し、改善につなげるかが重要です。
グッドマンの法則は、この取り組みを理論的に裏付けるものであり、現代の顧客対応戦略において欠かせない考え方です。ピンチをチャンスに変え、顧客から選ばれ続ける企業となるために、日々のクレーム対応を単なる問題処理ではなく、成長の契機とする視点が求められます。