現代のビジネス環境において、顧客対応の質は企業の評価を大きく左右します。その中でも「電話によるクレーム対応」は特に重要な場面です。顧客は不満や怒りを抱えて電話をかけてきます。その瞬間、企業の姿勢や誠実さが試されると言っても過言ではありません。一度の対応が顧客の信頼を取り戻す大きな機会となる場合もあれば、逆に小さな失言や不適切な態度が、長年培ってきた信用を失わせてしまうこともあります。
本記事では、電話クレーム対応の現場で即座に実践できる二つの重要なテクニックを解説します。どちらも実務で広く活用され、成果が実証されている方法です。単なる理論ではなく、現場で使える「実践知」として身につけることで、難しい状況でも落ち着いて対処でき、顧客との関係を建設的に維持することが可能になります。

電話対応において、最初に意識したいのが「言葉の選び方」です。言葉は単なる情報伝達の手段ではなく、相手の感情を左右する強力な要素です。わずかな言葉遣いの違いが、相手に「誠実に対応してもらえた」と感じさせることもあれば、「突き放された」と思わせてしまうこともあります。
ここで有効なのが、「D言葉」と「S言葉」という考え方です。
実際の場面を考えてみましょう。顧客が納品先について何度も説明している状況で、担当者が「ですから、何度も申し上げておりますが」と返したとします。この表現は、相手に「自分の話を理解してもらえていない」「面倒がられている」と感じさせてしまい、不満を増幅させます。
さらに深刻な例として、商品の納期遅延に関する問い合わせに「でも弊社にもまだ届いていないので、どうしようもありません」と答えてしまうケースがあります。これは、事実を述べているにすぎないとしても、顧客からすると「責任逃れ」「開き直り」にしか聞こえません。結果として、企業全体の信頼が大きく損なわれる恐れがあります。
同じ状況でも、S言葉を用いることで印象は大きく変わります。たとえば「左様でございますか、失礼いたしました」と言えば、相手の立場を理解しようとする姿勢が伝わります。商品の遅延に関しても、まず「承知いたしました。ご迷惑をおかけして申し訳ございません」と伝えることで、顧客は「理解してもらえた」と感じ、心情が落ち着きやすくなります。その上で「現在の入荷状況を確認し、すぐに折り返しご連絡いたします」と続ければ、信頼関係を保ちながら次の行動に移すことができます。
S言葉の効果は大きいですが、単に言い換えれば良いわけではありません。心からの姿勢が伴っていなければ、表面的で不自然に聞こえ、かえって不信感を招きます。相手の話をきちんと最後まで聞き、状況を理解した上で、言葉に思いやりを込めることが重要です。

電話クレーム対応においてもう一つ重要なのが「クールダウン戦略」です。これは、顧客が感情的に高ぶっているときに、すぐに解決策を提示するのではなく、まず相手の気持ちを落ち着かせるための対応を行う方法です。
怒りの感情が強いとき、人は合理的な判断ができなくなります。その状態で説明や解決策を伝えても、相手は耳を傾ける余裕がありません。逆に反感を強めてしまう危険すらあります。そこでまず「気持ちを落ち着かせるための時間を確保する」ことが必要になります。
クールダウンの第一歩は、相手の言い分を最後まで遮らずに聞くことです。「はい」「承知いたしました」「そうですね」と短い相づちを入れながら、相手の感情の吐き出しを受け止めます。途中で反論や弁明を挟むことは逆効果です。
また、適切なタイミングで「ご不便をおかけして申し訳ございません」「ご心配をおかけし大変失礼いたしました」と伝えることで、相手は「この人は自分の気持ちを理解してくれている」と感じ、徐々に感情が落ち着いていきます。
感情的な発言の中には、問題解決に必要な情報が隠されています。そのため、ただ聞くだけでなく「要点を整理しながら理解する」姿勢が必要です。被害の内容や困っている状況が具体的にどこにあるのかを確認することで、後の対応がスムーズになります。
ただし、初期段階では細かい質問を重ねるよりも「受け止めること」を優先しましょう。詳細な確認は相手が落ち着いてから改めて行うほうが適切です。
相手がある程度冷静になった段階で、「最適な解決策を検討するための時間」を設けます。たとえば「ただいまの件については確認が必要ですので、本日中に責任者からご連絡差し上げます」と伝えれば、顧客は「放置されている」のではなく「丁寧に調査してもらえている」と感じます。
このとき重要なのは、期限を必ず明示することです。「後ほどご連絡します」と曖昧に伝えると、顧客は不安を募らせてしまいます。誠実さを示すために、「誰が、いつまでに、どのように対応するのか」を明確に伝えることが欠かせません。

クールダウン戦略は、担当者一人の努力だけでは不十分です。組織としての統一方針と仕組みが必要です。たとえば、重大な案件では必ず上司や専門部署と連携し、会社としての正式な見解を顧客に伝えることが大切です。
「個人の意見ではなく、会社として責任を持った回答である」と伝えることで、顧客は安心感を得やすくなります。逆に担当者の独断で不用意な約束をすると、後で組織内調整に支障をきたし、かえって顧客の不信を招きかねません。

商品の不具合による損害、契約条件に関するトラブルなど、複雑な案件に直面することもあります。その場合も基本は変わりません。まずS言葉で顧客の感情を受け止め、クールダウンのプロセスを踏み、事実を整理してから組織として対応を検討します。感情面と事実確認の両面をきちんと進めることが、混乱を防ぐ最大のポイントです。
クレーム対応力は一度学んで終わりではなく、継続的に磨いていく必要があります。定期的な研修やロールプレイングを通じて訓練するほか、実際の事例を振り返り、成功例や失敗例を共有することが効果的です。組織全体で知見を積み重ねることで、どの担当者でも一定水準以上の対応ができる体制を築くことができます。
電話クレーム対応は、企業と顧客の信頼関係を守るうえで極めて重要な業務です。本記事で紹介した二つのテクニック、すなわち「D言葉からS言葉への転換」と「クールダウン戦略の実践」は、現場で即活用できる強力な手法です。
大切なのは、単なる言葉遣いや手順の問題ではなく、「顧客を理解しようとする姿勢」「誠実に問題解決へ取り組む姿勢」を伴わせることです。その姿勢こそが、結果として顧客に安心感と信頼を与えます。
日々の業務でこれらを実践し、経験を重ねていくことで、困難な状況でも冷静に対応できるスキルが自然と身についていきます。そしてそれは、個人の成長だけでなく、企業全体の信頼性向上にもつながっていくのです。