
企業活動において、クレームは避けて通れない課題です。顧客との取引の中で発生する誤解や不信感は、対応を誤れば信頼を大きく損ねる可能性があります。しかし一方で、誠実かつ冷静に対処することで、逆に顧客との関係をより強固にできることもあります。
今回は、会計事務所における社長自らのクレーム対応事例を紹介しながら、企業経営における「信頼の守り方」について考えていきます。
ある会計事務所に、顧客の一人から電話が入りました。顧客は、同事務所の社員の指示通りに税務手続きを行ったところ、税務署から「税金を支払うように」と通知を受けたことに強い不満を抱いていました。
顧客の主張はこうです。
社員の説明を信じて手続きを進めた。
しかし実際には税金を支払う必要があると言われた。
本来払わなくてもよい税金を、社員の落ち度で払うことになったのではないか。
顧客は「社長を出してほしい」と要求し、電話は最終的に社長に取り次がれることになりました。

社長が電話に出ると、顧客は強い口調で不満をぶつけます。
「社員の言う通りに手続きしたら、税金を払えと言われた。どうなっているのか。」
ここで社長はすぐに反論せず、まず「事実を確認したい」と冷静に伝えました。しかし顧客はさらに追及します。
「社長なら社員のことを把握しておくべきだ。」
「無責任な態度では困る。」
一見すると社長にとって厳しい状況です。自らの責任を問われ、感情的に反発してしまいそうな場面ですが、ここで社長は落ち着いてこう答えます。
社員に日常業務を任せているが、税務上の最終責任は自分にある。
税務署から問題が指摘された場合は、すべて社長である自分が責任を負う。
したがって、まずは事実関係を確認したい。
顧客はなおも食い下がり、「すでに税務署から支払いを求められている」と訴えました。これに対して社長は、社員の専門性を信頼する立場を示しながら、こう問いかけます。
「私たちの社員は税金のプロです。お客様は税務の専門家でしょうか?」
顧客は「専門家ではないから任せている」と答えます。そこを踏まえて社長は再び冷静に返しました。
専門家の判断を誤っているとするなら、その根拠を整理する必要がある。
税務署側の判断ミスの可能性も否定できない。
したがって、まずは事実を調査する。
最終的に社長は「半日以内に調査し、改めて連絡する」と約束。顧客もこれに応じ、電話は落ち着いた形で終わりました。

今回のケースから学べる重要なポイントを整理してみましょう。
顧客が強い口調で責任を追及する場面は、誰にとっても心理的に厳しいものです。しかし社長は感情的に反論せず、「事実関係の確認」を第一に据えて対応しました。冷静さを保つことで、顧客の怒りも次第に落ち着いていきます。
「社員任せにしている」と受け取られる発言は一歩間違えば逆効果ですが、社長は「最終責任は自分にある」と明確にしました。責任逃れではなく、組織としての仕組みと社長としての覚悟を同時に示した点が信頼につながります。
「社員は税務のプロ」という言葉は、顧客に対して高圧的に響く可能性もあります。しかし社長は相手が「専門家ではない」ことを前提にしつつ、事実確認の必要性を丁寧に説明しました。専門性を盾にするのではなく、調査を約束することで説得力を高めています。
「しばらく時間をください」と言われても、顧客は安心できません。そこで社長は「半日以内」という具体的な期限を提示しました。これにより顧客は「きちんと対応してもらえる」という安心感を得ることができます。

通常、クレーム対応は担当社員やマネージャーが行うケースが多いものです。しかし、今回のように顧客が強く「社長を出せ」と要求する場合もあります。社長自らが対応に出ることで、次のような効果が期待できます。
一方で、社長が感情的に対応してしまえば逆効果になるリスクもあります。その意味で「冷静さ」と「責任の覚悟」が不可欠です。
今回の事例では、社長が自らクレーム対応を行い、冷静かつ誠実な姿勢で顧客と向き合いました。
これらの対応によって、顧客の不満は次第に和らぎ、問題解決への道筋が立てられました。
クレームは「企業の弱点を突かれる瞬間」ですが、その対応次第で「信頼をより強固にするチャンス」にもなり得ます。経営者にとって最も大切なのは、責任から逃げず、誠実に顧客と向き合う姿勢なのです。