― 公正採用のために ―
近年、日本社会において「公正採用」という言葉が注目されるようになっています。多様な人材が活躍する時代において、応募者の能力や適性を正しく評価するためには、採用選考における公平性を確保することが欠かせません。しかし現実には、面接の場で無意識のうちに不適切な質問をしてしまい、応募者に不快感や不安を与えるケースが少なくありません。場合によっては法的トラブルや社会的批判に発展し、企業の信頼を大きく損なう恐れすらあります。
本記事では、採用面接において「聞いてはいけない質問」とその理由を具体的に解説し、なぜ公正採用が重要なのかを掘り下げていきます。さらに、実際に面接で聞くべき質問や、企業が取り組むべき施策についても整理し、読者の皆様が自社の採用活動を振り返る一助となるよう構成しています。

採用面接の場で最も避けなければならない質問の一つが、応募者の家族や出身地に関わるものです。
具体例:
一見、世間話の延長のように思えるかもしれません。しかし、出身地や家族の職業と応募者本人の仕事の適性・能力は無関係です。これらを聞くことで、採用担当者の無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)が働き、判断が歪む可能性があります。
特に日本では、過去に出身地や家柄を理由に就職差別が生じてきた歴史的背景があるため、こうした質問は非常にセンシティブです。応募者に「差別されるのではないか」という不安を与えかねないため、厳に慎む必要があります。
個人の価値観や信仰に踏み込む質問もまた、面接ではタブーとされています。
具体例:
一見すると応募者の人柄を知るための質問のように思えますが、回答次第では思想や信仰の傾向を推測される可能性があり、憲法で保障されている「思想・良心の自由」「信教の自由」を侵害しかねません。
例えば、読書傾向や尊敬する人物を通じて応募者の政治的立場や宗教観を推測することは、採用判断の公正性を損なう危険があります。企業が評価すべきは、業務遂行能力や協調性といった職務に直結する要素であり、思想信条ではありません。
特に女性応募者に対して行われがちな結婚・出産関連の質問も、厳格に禁止されています。
具体例:
こうした質問は、男女共同参画社会の推進に逆行する行為です。結婚や出産は個人の私的領域に属するものであり、それを採用可否の判断材料にすることは明確な性差別にあたります。
また、このような質問の背後には「女性は家庭を優先すべき」「出産すれば職場を離れるだろう」といった古い価値観が潜んでいる場合が少なくありません。現代社会では男女を問わず仕事と家庭を両立することが当たり前になっており、企業がその考えに追いつくことが求められています。
禁止されている理由は明確で、憲法や労働関連法令に基づいています。
つまり、家族・思想・結婚出産といった質問は、これらの法的原則を侵害する可能性があるため、禁止されているのです。
厚生労働省は「公正な採用選考」を推進するため、具体的な11の禁止事項を示しています。
例えば「本籍・出生地」「家族の職業」「宗教」「支持政党」「購読新聞」などが挙げられており、いずれも応募者の能力や適性と無関係な情報です。
採用担当者はこの指針を熟知し、日常的に意識しておく必要があります。
公正採用は企業のためだけではなく、社会全体にも意義があります。
企業一社一社の取り組みが積み重なり、社会の公正さを高めていくのです。

では、面接で本当に聞くべきことは何でしょうか。答えはシンプルで、「業務遂行に必要な能力・意欲・適性」に関わる内容に絞ることです。
適切な質問例:
これらの質問であれば、応募者の資質を直接評価でき、公正性も担保されます。

公正採用を実現するためには、面接官自身が正しい知識と意識を持つことが不可欠です。
定期的な研修を通じて、意識のアップデートを図る必要があります。
仕組みそのものを公正に設計することが、企業文化の定着につながります。
採用面接での禁止質問は、単なる「マナー違反」ではなく、憲法や労働法に抵触する重大な問題であり、応募者の尊厳を守るための基本原則です。
企業が公正採用を徹底することは、優秀な人材を確保するだけでなく、社会的責任を果たすことでもあります。採用担当者一人ひとりが正しい知識を持ち、偏見を排した面接を実践することで、真に公平で透明性のある採用活動が実現されます。
厚生労働省が提供する公正採用の指針や研修資料は実務に役立つ内容が多く、必ず活用すべきです。今一度、自社の採用プロセスを見直し、すべての応募者にとって平等で尊厳ある選考を実現していきましょう。