
~おとぎ話に学ぶクレーム対応の極意~
「クレーム対応」と聞くと、多くの人が少し身構えてしまうのではないでしょうか。お客様からの厳しい言葉や思いがけない要求に、どのように向き合えばよいのか、正解が分からず戸惑う場面は少なくありません。
ではもし、クレームを入れてくる相手が“昔話の登場人物”だったらどうでしょうか。今回は、有名なおとぎ話「金の斧・銀の斧」の木こりからクレームが入った、という想定で考えてみます。
少しユーモラスに思えるかもしれませんが、実はそこには現実のビジネスシーンに役立つ大切な学びが隠されています。
ある日、とあるお客様サポートセンターに一本の電話がかかってきました。
「お電話ありがとうございます、〇〇お客様サポートセンター△△でございます。」
いつものようにオペレーターが電話に出ると、受話器の向こうからこんな声が聞こえてきます。
「私、木こりなんですけど。」
驚いたオペレーターが確認すると、どうやら“昔々あるところに”住んでいるあの木こりで間違いないようです。事情を聞いてみると、こうでした。
「斧を泉に落としちゃったんですけど、金の斧とか銀の斧をもらえるはずなのに、何ももらえなかったんですよ。これ、どうなってるんですか?」
いわゆる「期待した通りのサービスを受けられなかった」という問い合わせです。現実の企業でもよく耳にするクレームの典型例と言えるでしょう。
木こりの言い分はこうです。
普通の斧を泉に落とした。
昔話のルールでは、正直に答えれば「金の斧」「銀の斧」までもらえるはず。
ところが実際には何ももらえなかった。
ここでオペレーターは冷静に状況を整理し、確認を進めます。
「女神から『あなたが落としたのは金の斧ですか?銀の斧ですか?それとも普通の斧ですか?』と質問があったかと思うのですが、その際にはどうお答えになりましたでしょうか?」
すると木こりは、ためらうことなくこう答えます。
「それは、もちろん『金の斧』って言うでしょう?」
この返答を聞いたオペレーターは、少々困った様子で説明を始めます。
「さようでございますか……実は、金の斧を落としたと回答いただきますと、ルール上、金の斧も銀の斧も差し上げられないことになっているんです。」
これはまさに「利用規約に基づいた説明」です。現実世界でも、保証条件やサービスの適用範囲について説明を求められることがあります。顧客が誤った認識をしている場合、冷静にルールを伝えることが大切です。
しかし木こりは納得しません。
「なんで? 泉に斧を落とすと金の斧がもらえるって聞いてただけなんですけど。」
ここに“期待値と実際のギャップ”が生じているのです。

さらに木こりはこう迫ります。
「じゃあ最初に落とした普通の斧を返してください。」
ところがここにも制約があります。
「大変申し訳ございません。物語の開始時にマニュアルをお渡ししておりまして、正直に『普通の斧を落とした』とお答えいただく必要があるんです。今回は回答が不正解でしたので、斧をお返しすることもできないんです。」
つまり「規定により対応できないケース」というわけです。
木こりはさらに粘ります。
「じゃあもう一回落としたらどうなるの?」
「恐れ入ります、斧を落とすのは一度までというルールでして……」
オペレーターは丁寧に説明を繰り返しますが、お客様の不満は解消されません。ここに“クレーム対応の難しさ”があります。
話はさらにこじれていきます。木こりは後になってこう主張し始めます。
「実は最初は普通の斧って言ったんですけど、本当は金の斧を落としたんですよ。だから金の斧を返してください。」
現実のビジネスでも、「当初の申告と後からの主張が食い違う」ケースは珍しくありません。この場合、事実確認を怠るとトラブルが大きくなってしまいます。
そこでオペレーターは冷静に対応します。
「さようでございますか。では女神に確認を取らせていただきますので、改めてご連絡してもよろしいでしょうか?」
顧客の主張を否定せず、一旦預かりの姿勢を見せる。この「クッション言葉」が、感情的な衝突を避ける上で重要です。
最後にオペレーターはこう切り出します。
「恐れ入ります、木こりさまのご連絡先をお伺いしてもよろしいですか?」
すると返ってきた答えがこちら。
「木こりは木こりですよ。」
何とも曖昧な回答ですが、ここも現実世界に通じています。連絡先や顧客情報を提供したがらない人は少なくありません。その際も、「では今お電話いただいている番号にご連絡いたします」と、できる範囲でフォローを行うことが求められます。

今回の「木こりからのクレーム対応」を通して見えてきた学びを整理すると、以下のポイントに集約されます。
一見コミカルに思えるやり取りの中にも、実際のビジネスで役立つ「クレーム対応の基本」が詰まっています。
おとぎ話の木こりは、正直者であれば報われるという象徴的な存在です。しかし今回のクレームのように、少しでも不誠実な答えをしてしまえば、本来得られるはずの恩恵を失ってしまう。これは現実社会においても同じかもしれません。
企業にとっても、顧客との信頼関係を築くには誠実さが欠かせません。ルールを守ることはもちろん大切ですが、それを一方的に押し付けるのではなく、顧客の立場に寄り添いながら説明し、安心してもらうことが最終的な目的となります。
もし次にあなたがクレーム対応に直面したとき、今回の「木こりとのやり取り」を思い出してみてください。少し肩の力を抜いて、落ち着いて対応できるはずです。